2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K01762
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
小林 磨美 立命館大学, 経営学部, 教授 (40411566)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | バンキング / 銀行規制 / 契約理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
自己資本の充実は銀行による過剰なリスクテイクを抑制するために重要であることはよく知られた事実である。その一方で、現実の銀行規制のもとでは自己資本として株式以外にも劣後債に代表される負債性ハイブリッド証券の一部が認められており、近年では銀行をはじめ多くの企業が自己資本の充実を目的として劣後債による資金調達を活発化している。2021年度はこの事実を背景として、銀行の自己資本構成と安全性の関係について理論モデルに基づく分析を行い、後述する論文2本にまとめた。 本研究では資本として株式のほかに劣後債を発行する銀行を考える。両証券とも、投資家は情報提供された残余請求権者としてインセンティブを与えられるが、劣後債は投資家が銀行の投資選択を操作することを可能にするというのが本研究結果の主張である。銀行は金利返済の負担が増すほど、コーポレートファイナンスでよく知られる「リスクシフト問題」が発生し、社会的に望ましくないという点で過度なリスクテイクをする。投資家は自分の期待リターンを高めるために、銀行のリスクシフトのインセンティブを考慮して戦略的に劣後債の金利を決定することができる。その結果、銀行が一定以上の自己資本を劣後債に依存する場合、高い自己資本比率のもとでリスクテイクが発生することを明らかにした。この結果は、銀行の過度なリスクテイクを抑制するためには自己資本を構成する証券に対して制約を課す重要性を示唆する。さらに、金融政策が銀行のリスクに与える影響のインプリケーションを導き出し、非金融企業への応用を導出している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおり論文にまとめ、国際学会などでの発表後、専門ジャーナルへの投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は前年度の研究の成果や結果導出過程での気づきに基づき、銀行にまつわる問題を以下の二つの方向で研究を進めたいと考える。 ひとつ目は借り手(企業など)に対する規律付けの役割が期待される貸し手(銀行など)のエージェンシー問題の分析である。コーポレートガバナンス分析の枠組みにおいて借り手の規律付けをすることが貸し手が担う主要な役割と考えられてきたが、前年度の研究結果は貸し手自身の期待リターン最大化がエージェンシー問題の源泉になることを示唆する。本年度は銀行のエージェンシー問題に焦点を当て、借り手に対してリスクテイクを促す危険性を指摘し、さらにその防止策としての規制について考察したい。 二つ目は現実の銀行取引で見られる有担保貸借をめぐる問題について分析する。担保証券として証券化金融商品を中心に裏付け資産の特定が困難な複雑なものが用いられることが先の金融危機で問題になった一方で、その複雑性が裏付け資産価値に対するモニタリングを促すことで資金調達側の負債制約を緩和する可能性に着目し、複雑な証券を用いた有担保貸借が選択される条件を導出したい。
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Causes of Carryover |
コロナ発生による海外渡航自粛によって、申請当初に予定していた国際学会への参加のための渡航に係る費用が発生しなくなったため。
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