2021 Fiscal Year Research-status Report
信用と保険に対する貨幣の補完的機能に関する理論研究
Project/Area Number |
20K01780
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
戸村 肇 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (90633769)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 決済システム / フィンテック / 暗号通貨 / 電子マネー / セキュリティトークン / 海外デジタル通貨 / 中央銀行デジタル通貨 / 法貨 |
Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトの研究トピックの一つである「企業間信用での現金決済の必要性」について、昨年度国際学術誌Japanese Economic Reviewに掲載された"Nominal contracts and the payment system"で行った理論分析を基に、日本の実務家向けに「銀行送金システム改革の課題と方策」、「フィンテックの資金決済システムへの影響と金融規制への含意」、「信用経済と決済システム」という3本の論文を著した。最初の論文は日本金融通信社「金融ジャーナル」に掲載された。二本目の論文は日本証券経済研究所が発行する学術誌である「証券経済研究」に掲載が予定されている。三本目の論文は東京経済研究センター(TCER)の金融プロジェクトとして出版される論文集に掲載される予定である。 「銀行送金システム改革の課題と方策」では、日本の資金移動(電子マネー)業者の銀行の間の電子マネーと預金口座の接続を巡る対立に関して、日本の決済システムのどこにボトルネックがあり、どのような解決策があるのかを説明した。 「フィンテックの資金決済システムへの影響と金融規制への含意」の論文では、現在の銀行システムの構造を理論的に説明した上で、暗号通貨やセキュリティトークンなどを使った代替的な決済システムと現在の銀行を中心とする決済システムの優劣を比較し、前者の工学的柔軟性と後者の法制度面での効率性の双方を享受するためにフィンテックが現在の決済システムにもたらすであろう変化の見通しを述べている。 「信用経済と決済システム」の論文では、同じく現在の銀行システムの構造を理論的に説明した上で、現在の銀行システムの機能を暗号通貨や電子マネーなどの代替的な民間電子決済システムに移し替えることが可能かを説明している。また、なぜ現実の世界において各国の通貨が自国の中央銀行に発行されるのかの理論的な説明もしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は本プロジェクトとは別に、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、急遽日本の家計消費と感染拡大の統計的関係を分析した"Associations between components of household expenditures and the rate of change in the number of new confirmed cases of COVID-19 in Japan: Time-series analysis”という論文を執筆し、国際学術誌PLOS ONEに掲載したため、当初予定していた「日本における国債の大量発行による企業の内部留保の増加と銀行の信用創造機能の低下の可能性」の分析は遅れた。一方で、実務家向けの論文の作成を通じて、本プロジェクトで2020年度に得られた科学的知見の一般社会への還元を行う作業は進んだ。
また、本プロジェクトの成果として2020年度に国際学術誌Japanese Economic Reviewに掲載された"Nominal contracts and the payment system"は、2021年度に同誌からThe 2021 JER Best Article Awardを受けた。
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Strategy for Future Research Activity |
「企業間信用での現金決済の必要性」というトピックの発展として、新型コロナウイルスの感染拡大により分析が遅れた、信用創造の側面から日本の生産性成長の鈍化の分析を行うことを試みる。2020年度の本プロジェクトの実施状況報告書に記載した通り、日本の生産性成長率は1970年代と1990年代に大きな永続的低下を見せたが、これらは国債の大量発行と軌を一にしている。この相関については、決済システムの仕組みを踏まえると、国債の大量発行による企業の内部留保の増加と銀行の信用創造機能の低下が経済の生産性を低下させるという因果関係として説明できる可能性があるため、2022年度はその可能性の追求を行う予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大により出張を控え、また2021年度にはPCの更新を行う時間がなかったために、その分の予算が未使用になっている。2022年度には現在古くなっているPCの更新が必要になる。また、新型コロナウイルスの感染拡大の状況によっては、研究発表等のための出張も可能であれば行う予定である。
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