2022 Fiscal Year Research-status Report
信用と保険に対する貨幣の補完的機能に関する理論研究
Project/Area Number |
20K01780
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
戸村 肇 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (90633769)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 決済システム / フィンテック / 信用創造 / 電子マネー / 中央銀行デジタル通貨 |
Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトの研究トピックの一つである「企業間信用での現金決済の必要性」について、昨年度国際学術誌Japanese Economic Reviewに掲載された"Nominal contracts and the payment system"で行った理論分析を基に実務家向けに執筆した和文論文「フィンテックの資金決済システムへの影響と金融規制への含意」が日本証券経済研究所が発行する学術誌である「証券経済研究」に掲載された。この論文は、現在の銀行システムの構造を理論的に説明した上で、暗号通貨やセキュリティトークンなどを使った代替的な決済システムと現在の銀行を中心とする決済システムの優劣を比較し、前者の工学的柔軟性と後者の法制度面での効率性の双方を享受するためにフィンテックが現在の決済システムにもたらすであろう変化の見通しを述べたものである。また、海外向けの発信として本論文の英語訳を作成し、"What Will Be the Impact of Fintech on the Payment System? A Perspective from Money Creation"と題して、早稲田大学現代政治経済研究所のワーキングペーパーとして発表した。こちらの論文は社会科学の大規模プレプリントデータベースであるSSRNにもアップロードした。
また、本プロジェクトの研究結果の一般向けのもう一つの発信として、「全銀システム開放がもたらす変化 : 電子マネー・国際送金・銀行への影響」と題した論文を金融ジャーナル社が発行する「月刊金融ジャーナル」に寄稿した。こちらの論文では、全銀システムの資金移動業者への開放がもたらす金融システムの変化を、非銀行事業者が電子マネーを顧客との接点として提供していることに着目して分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトの成果として2020年度に国際学術誌Japanese Economic Reviewに掲載された"Nominal contracts and the payment system"で得られた知見を、実務家向けの論文の作成を通じて一般社会への還元を行う作業は進んだ。全銀協による資金移動業者への全銀システム開放や、政府・日銀により検討が進む中央銀行デジタル通貨など、現在の日本で同時進行している実務上の課題に対し、厳密な経済理論分析に基づく知見を実務家にも理解可能な形でオンタイムで社会に提供できた。
また、研究実績の概要で述べた情報発信に加えて、本プロジェクトの「企業間信用での現金決済の必要性」に関連するもう一つのトピックである、「日本における国債の大量発行による企業の内部留保の増加と銀行の信用創造機能の低下の可能性」の分析の準備作用を行うこともできた。
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Strategy for Future Research Activity |
本プロジェクトのもう一つのトピックである「社会的な有用な複数通貨の在り方」については、経済学者の中の貨幣観が、金貨のような物質(の代替物)が経済の中をぐるぐる回るという的外れなものであるため、実際に複数通貨を社会で実装して有用性を見せないと経済学者の内輪での評価を得て国際学術誌に載せることはできないと感じたため、研究作業を保留していたが、次年度はこのトピックについての理論分析の結果を、日本証券経済研究所が発行する学術誌である「証券経済研究」での掲載に向けて完成させる予定である。
この論文では、現在の決済システムを補完する新しい決済手段の条件として、決済手段の発行条件と決済手段の移転条件に制限を与えることが必要になることを理論的に示す。その上で、地域通貨と暗号通貨がこれらの条件の一部を満たす一方で、全ての条件を満たしてはいないことを論じる。また、発行条件と移転条件の両方への制限を満たした決済手段が社会保険の代用になることを示し、日本社会への応用可能性を実務家にも理解可能な形で発信する予定である。
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Causes of Carryover |
高性能ラップトップを更新したが、研究出張は引き続き行わなかった。次年度では、9月に予定されている秋季日本経済学会での決済システムに関するパネルの一員として申請されており、申請が受理された場合は、日本証券経済研究所刊行の「証券経済研究」に掲載された「フィンテックの資金決済システムへの影響と金融規制への含意」を発表する予定である。次年度使用額はこちらの旅費と、最終年度に予定されている研究の実施に必要な書籍等の購入に充てられる予定である。
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