2023 Fiscal Year Research-status Report
信用と保険に対する貨幣の補完的機能に関する理論研究
Project/Area Number |
20K01780
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
戸村 肇 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (90633769)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 決済システム / フィンテック / 暗号通貨 / 電子マネー / セキュリティトークン / 海外デジタル通貨 / 中央銀行デジタル通貨 / 法貨 |
Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトの研究トピックの一つである「企業間信用での現金決済の必要性」について、祝迫得夫(編)『日本の金融システム』(東京大学出版社、2023年10月刊行)の第二章「信用経済と決済システム――新しい電子通貨は銀行預金に代わる決済手段になりうるか」を執筆した。この論文では、まず、暗号通貨や電子マネーなどの現在の銀行預金に代替する電子通貨のビジョンが標準的な経済学の貨幣理論と整合的であることを説明した。経済的価値を持つ流動資産が通貨として流通した上で、その貸借を仲介する形で銀行が現れるとする標準的な経済学の貨幣理論とは異なり、現代の銀行システムでは銀行が手元の通貨が不足している主体に銀行預金の新規残高を発行することを説明し、この仕組みにより現代の銀行システムが暗号通貨や電子マネーなどの代替的な電子通貨よりも効率的であることを説明した。また、裁判所の強制執行力の不完全性から名目債務が必要となり、この仮定から中央銀行と市中銀行の二層からなる現代の銀行システムの形態を理論的に復元できることを説明した。この理論的結果のインプリケーションとして、現代においてそれぞれの主権国家が別々の通貨を発行している事実も説明できることを説明した。
加えて、2023年度の秋季日本経済学会において、『フィンテックの発展と金融システムの変革』セッションに報告者として参加し、「フィンテックの銀行業への影響と金融規制への含意」と題する報告を行った。この報告では、競争上の要請から複数の市中銀行が存在することにより、電子決済を行うためには、それぞれの非銀行事業者が各顧客の銀行口座のある銀行とネットワーク接続を行う必要があり、その効率化のためにフィンテックが必要になることを説明した。この理解を踏まえると、中央銀行デジタル通貨は銀行システムと非銀行・個人を結ぶフィンテックの一形態として理解できることも説明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトの研究トピックの一つである「企業間信用での現金決済の必要性」については、現実の二層式の銀行システムで行われる電子決済の形状や課題を説明できない標準的な経済学の貨幣理論の行き詰まりを打破する形で、不完備契約理論を応用して現実の銀行システムの形状を復元できる理論を構築し、中央銀行デジタル通貨が導入された場合の形状や国家主権と通貨の関係など、現実社会で疑問とされている複数の課題に答えを導き、一般向け書籍の形で社会への研究結果の還元も行えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本プロジェクトのもう一方の研究トピックである「社会的に有用な複数通貨制の在り方」についても、2024年度に日本証券経済研究所主催の「テクノロジーと金融革新に関する研究会」で報告し、その成果を本研究所の機関誌である『証券経済研究』に寄稿・出版することが予定されている。この論文は一般向けの解説になるので、本プロジェクトの研究成果の社会的還元の一部として位置付けられる。
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Causes of Carryover |
予定よりも旅費を使用しなかったことと、日本語での論文と研究発表が中心となったために英文校正費が発生しなかったために次年度使用額が発生した。2024年度は、「社会的に有用な複数通貨制の在り方」についての研究のための図書・資料代、また必要があれば旅費に使用する予定である。
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