2022 Fiscal Year Research-status Report
植民地期インドの労務管理制度と労働者の社会的属性:サービス・レコード分析を通じて
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20K01793
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
野村 親義 青山学院大学, 国際政治経済学部, 教授 (80360212)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 植民地期インド / 製造業 / タタ鉄鋼所 / サービス・レコード / 労務管理制度 / 社会的属性 / 労働者 / 労働生産性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、自由化政策が広く世を覆った植民地期インドで現在同様2次産業が停滞していたことに注目し、その原因の一端を、20世紀前半インド最大の近代的製造会社タタ鉄鋼所の労働者の社会的属性と労務管理制度改革・生産性との関係を明らかにすることで、考察することである。その際本研究は、1920・30年代同鉄鋼所に従事した労働者のサービス・レコード(職員簿)が提供する、各々の労働者の年齢、出身地、宗教・カースト、識字能力、職種、給与、昇給などの情報を基礎に、労働者の社会的属性が、労務管理制度改革・生産性といかなる関係があるのか、分析することを研究の主眼としている。 コロナ禍の影響で、研究初年度である2020年度から長く、研究計画の修正を余儀なくされてきた。最大の修正点はサービス・レコードの追加収集作業であった。研究開始段階ですでに一定程度のサービス・レコードを有していたが、当該研究期間、追加収集し、そのうえで、分析を行うことが、本研究の大きな柱の一つであったからである。 2023年3月に、ようやくインドに渡航することができ、当該作業を開始することができた。もっとも、今回の訪問で、現在、当該サービス・レコードを保管するタタ鉄鋼公文書館が、サービス・レコードの公開を行っていないことを確認した。他方で、今回の訪問で、サービス・レコードに代替しうる、タタ技術学校入学者数百人分の個票(1930年代以降)を入手することができた。当該個票にも、年齢、宗教・カーストなどの社会的属性が記載されており、現在、当該研究課題に即したその利用方法を検討している。 なお、2022年度は、8月、イギリス・ロンドンに滞在し、植民地期インドの2次産業の発展に影響を与えた政府資料、個別企業情報の史料収集を進めることもできた。 総じて、2022年度は、2度の海外調査を通じ、コロナ禍で滞っていた作業を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度は、コロナ禍のもと滞っていた海外史料調査を行うことができ、ようやく本研究課題を本格的に前進させることができた。タタ鉄鋼公文書館でサービス・レコードの追加収集はできなかったが、代替しうる史料を入手できたことで、労働者の社会的属性と労務管理制度改革・生産性との関係が、研究開始当初想定していた視点とは異なる視点からも分析できる可能性が広がったことは、想定外の喜びであった。 また、2022年8月には、イギリス・ロンドンにおいて、植民地期インドの2次産業発展に影響を与えた経済政策、ならびに同時期の製造業の動向を示す統計資料の収集に成功したことも、本研究課題を前進させるに有効な作業であった。 これら海外での史料収集作業に加え、2022年度は、植民地期インド工業化に関する概説論文を日本語・英語で各々執筆し、日本語のものは同年度刊行された。英語のものは、現在編者に原稿を提出し、他執筆者の原稿が整ったのち行われる外部査読待ちとなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、当初予定では、本研究課題の最終年度となる。もっとも、コロナ禍により本研究の進捗は遅れており、現在、1年の延長を検討している。 そのうえで、2023年度は、2022年度ようやく開始できた海外での史料調査をさらに継続する予定である。まず、8月、イギリス・ロンドンに赴き、政府資料、企業統計資料の追加収集を行う。そのうえで、2024年3月に、再度インドに赴きタタ技術学校入学者の個票の追加収集を行う予定である。 また、2023年度は、これまでの作業を基に、タタ鉄鋼所労働者の社会的属性と労務管理制度改革・生産性の関係分析を行い、その結果をワーキングペーパーとすることも目的とする。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響で、研究開始初年度である2020年度から2年間、本研究課題に必須の海外調査ができないでいた。2022年度、ようやく海外調査が実施できたが、いまだ不十分である。このことが、2022年度も次年度使用額が生じている最大の理由である。 2023年度は、2022年度同様、コロナ禍で長く不可能であった海外調査を引き続き行う予定であり、次年度使用額の減額が見込まれる。他方で、コロナ禍由来の研究の遅れにより、研究最終年度である2023年度に当該研究をすべて終わらすことが難しいことも想定される。2023年度の活動次第では、研究期間を1年延長することも視野に入れている。
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