2020 Fiscal Year Research-status Report
明治・大正期都市・農村醤油市場の構造と価格連関:高梨本家文書による数量的分析
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20K01795
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
前田 廉孝 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (90708398)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 幹夫 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (70184695)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日本経済史 / 醤油醸造業 / 髙梨兵左衛門家 / ブランド / 価格連関 / 時系列解析 / LASSO / スパース回帰 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の1年目にあたる令和2年度は,本研究課題の遂行に必要なデータとモデルの整備に力点を置いた。その作業内容は,以下2点に集約できる。 第1に,史料の収集・分析を担当している研究代表者(前田)は,上花輪歴史館所蔵髙梨本家文書「醤油萬覚帳」より地売り醤油の取引先別販売量・販売額を集約し,高頻度な価格データベース(DB)の整備を進めた。但し,COVID-19の拡大で本年度は上花輪歴史館における史料調査を実施できなかった。DBの完成には東京売り醤油の取引先別販売量・販売額を記載した史料の収集・分析が別途必要となるが,現時点では当該史料の調査は目処が立っていない。そこで,当面は地方市場向け醤油販売の分析を進める計画である。髙梨家は地方市場向けに約30種の印を設定し,多種の醤油を販売していた。こうした特徴は,既往の醤油醸造業史研究が大規模醸造家の代表例として扱ってきた銚子のヤマサ醤油には見られない。以上の分析を史料調査の再開時まで進めたい。 第2に,分析モデルの構築及び数量的分析を担当している研究分担者(伊藤)は,(1)東京醤油市場における異なる印間の価格連関,(2)異地点間の価格連関を,より鮮明に解析するための統計的手法の開発を最近の機械学習によるアイデアを背景に進めた。以上の作業により関連する対象市場のグルーピング・階層クラスターを識別する目処が立った。対象となるデータは市場・印・時系列といった属性を有する。市場における価格形成機能と伝搬過程という時系列での視点を含んだ分析を実施する場合,既存のクラスター分析に落とし込むと,「解釈困難なクラスター」の複数発生が予想される。そこで,DBを比較的簡単な構造を持つ巨大な線形時系列モデルに当てはめ,スパース回帰により,まずは基礎グループとしての最上位クラスターを形成する要因を特定するという接近方法を開発した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は(1)髙梨本家文書に依拠した1887-1917年関東地方醤油月次価格データベースの作成,(2)LASSO(Least Absolute Shrinkage and Selection Operator)を利用した分析モデルの構築,(3)1887-1917年東京醤油市場内における異ブランド間の価格連関分析,(4)1887-1917年関東地方都市・農村醤油市場内における異地点間の価格連関分析から構成される。これらのうち本研究課題の1年目にあたる令和2年度は(1)と(2)の作業を実施し,(2)については概ね目処が付いた。(1)についてはCOVID-19の影響で史料調査の遅延が生じているが,一方で【研究実績の概要】で述べた新たな研究のアイデアが浮上した。以上を総合し,現時点では「おおむね順調に進展している」と判断する。但し,次年度の令和3年度においてもCOVID-19の影響で史料調査を実施できない場合には,進捗の遅滞が生じる可能性を否定できない。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度には以下4点の作業を進めたい。なお,以下の計画はCOVID-19の影響が無いことを仮定している。 第1に,収集済である地売り醤油の取引先別販売量・販売額を記載した史料の分析作業を継続し,高頻度な価格データベースの整備を進める。第2に,上花輪歴史館で髙梨本家文書の調査を実施し,東京売り醤油の取引先別販売量・販売額を記載した史料の収集・分析を実施する。第3に,取引先別地売り醤油販売量・販売額のデータから地方市場向け醤油販売の分析を進める。なお,本作業実施時には追加的な史料の補充を要し,上花輪歴史館・ヤマサ醤油株式会社などで史料調査を実施する。第4に,分析モデルの構築を継続する。
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響で令和2年度は国内の史料調査・学会出張,海外の国際学会出張が全てキャンセルとなった。それゆえに,旅費の支出がゼロとなった。また,史料調査が実施できなかったために調査に必要な資材の購入も見送った。以上の理由から物品費の支出額も予定額を大幅に下回った。次年度使用額はCOVID-19の収束後,当初の計画通りに適切に執行する予定である。
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Research Products
(6 results)