2022 Fiscal Year Research-status Report
明治・大正期都市・農村醤油市場の構造と価格連関:高梨本家文書による数量的分析
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20K01795
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
前田 廉孝 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (90708398)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 幹夫 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (70184695) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 日本経済史 / 醤油醸造業 / 髙梨兵左衛門家 / 手印 / テクノロジー・フロンティア / 製品ポートフォリオ / 価格連関 / 在来産業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の3年目にあたる令和4年度は,令和2年度までに整備済のデータに依拠した論文の執筆を進めた。具体的に,「在来産業の製品ポートフォリオ拡張と低級品市場:1890-1910年代醤油醸造家・髙梨家の地方売りと手印類似品」と題した論文を執筆し,2022年4月に慶應義塾大学産業研究所よりディスカッションペーパー No.166として刊行した(https://www.sanken.keio.ac.jp/publication/KEO-dp/166/KEO-DP166.pdf)。 本論文より3点が明らかになった。第1に,低級品醤油が主体の地方市場は異地点間の価格連動性が低かった。第2に,髙梨家は低級品の販売拡大を手印と手印類似品の提供拡大によって達成した。第3に,地方市場で手印と手印類似品は販路確保のみならず価格の低下抑制に寄与した。在来産業はテクノロジー・フロンティアの押し上げが不可能な特性から製品フロンティアの水平的拡張に傾注したが,在来産業で製品の品質規格は近代産業より統一されていなかった。その状況下で各生産主体は個別に大量の印を設定し,多様な印は在来産業の製品市場で各製品の識別に用いられた。こうした特徴から在来産業は近代産業より製品ポートフォリオの水平的拡張を柔軟に実施し,価格の部分的なコントロールに利用した。以上を近代産業とは異なる在来産業固有の製品ポートフォリオの拡張として指摘した。 以上の内容に関する議論を関連の研究者と進展させ,2022年度三田史学会日本史部会(2022年6月25日・慶應義塾大学),経営史学会第58回全国大会(2022年9月16日・関西大学)において報告・議論した。これらの議論で得られた成果を反映し,2023年5月頃刊行予定の井奥成彦・中西聡編著『醸造業の展開と地方の工業化:近世・近代日本の地域経済』(慶應義塾大学出版会)に収録することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題は(1)髙梨本家文書に依拠した1887-1917年関東地方醤油月次価格データベースの作成,(2)1887-1917年東京醤油市場内における異ブランド間の価格連関分析,(3)1887-1917年関東地方都市・農村醤油市場内における異地点間の価格連関分析から構成される。これらのうち本研究課題の3年目にあたる令和4年度までに(3)は完了したが,令和4年度も前年度と同様にCOVID-19の影響で上花輪歴史館における史料調査は実施できなかった。そこで,(1)の代替策として府県統計書所収の物価データから醤油月次価格データベースを作成し,「研究実績の概要」記載の論文作成において利用した。 以上のように本研究課題で掲げた個別的な課題の一部は令和4年度までに完了し,一部の課題は代替策を実行することによって研究の遅延を可能な限りで補完した。しかし,基礎的なデータの一部を収集できていないことから「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」で示したように,上花輪歴史館所蔵史料の調査・撮影による史料収集を進めなければならない。令和5年度はCOVID-19の影響が徐々に薄れていくことが見込まれる。しかし,昨年度の「実施状況報告書」でも述べたように,上花輪歴史館の館員は全員が70歳以上と高齢であり,拙速な再開は人命にかかわる恐れが依然として払拭できない。それゆえに,同館は令和5年4月時点で史料利用を中止している。本年度においてもCOVID-19の影響を同館と慎重に検討・協議し,史料調査再開後は迅速に東京醤油市場の分析に必要な史料の収集を再開したい。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」及び「今後の研究の推進方策」でも述べたように,COVID-19の影響で令和5年度も上花輪歴史館の史料調査を実施できなかった。それゆえに,支出額が計画を下回った。しかし,令和5年度にはCOVID-19の影響が薄まることも予想され,史料調査の再開を予定している。
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