2021 Fiscal Year Research-status Report
国際企業の組織文化変容を検証する縦断的研究:日米企業報告書のテキスト分析
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20K01874
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
鈴木 志のぶ 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (30275507)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 組織文化変容 / 日米企業報告書 / テキスト分析 / 異文化コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はグローバルな経営環境変化が日米の組織文化に及ぼす影響を縦断的実証研究によって明らかにする。令和2年度までの活動を基に、令和3年度は本研究を実質的に前進させた。 まず、米国証券取引委員会がEDGAR(the Electronic Data Gathering, Analysis, and Retrieval system)によってオンライン公開している企業の年次報告書データを入手した。2010-2019に米国で株式公開を行っていた日本企業15社を選び、業種、企業規模等の点で日本企業15社のそれぞれに匹敵する米国企業15社を選択した。分析を適切に行う観点から、組織文化のうち、2021年度は特にリスク・コミュニケーションの部分に焦点を当て、年次報告書のうち関係する部分のテキスト・データを収集した。理論的枠組みとして、Hofstede(2001)による不確実性回避の文化差の概念と、Inkeles(1998)による文化間の(社会政治的構造、価値観、考え方などの)収束の概念を用いた。 分析の結果、以下が明らかになった。(1)リスクをステークホルダーに伝えるコミュニケーションにおいて、そこに表出する否定的な感情語の相対的出現頻度は、米企業よりも日本企業の方が強く、また時の変化に伴い、両国とも類似した変化を示した。(2)リスク・コミュニケーションに現れるトピックには両国に共通点が見られ、上位のトピックは、ITセキュリティー、株主の権利、現材料の安定的調達、為替、知的財産であった。(3)各トピックの顕在性については、一部を除き、文化差よりも時の変化が大きく影響し、2010-2019の期間、両国とも概ね類似した変化を示した。以上の結果は、上に挙げた二つの理論の主張を基本的に支持するものである。この研究結果は、論文の形で成果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020(令和2)年度を本研究の準備段階の年度と位置づけ、研究を細部にわたって設計、そのために図書・文献のレビューを行った。特に、組織コミュニケーション分野の最新の研究成果およびテキスト分析の方法に関する最近の研究成果を綿密に調査した。分析に必要なデータの所在を明らかにし、必要なデータのダウンロード行い、データ・セットを整えた。2021(令和3)年度は、データのテキストを分析するためのソフトウェアを購入した。2020年度の文献調査の結果、本研究のテーマは組織コミュニケーションに表出する文化変容であるが、組織文化はその範囲が広く、本研究の大規模テキスト・データ分析の手法として考えていたトピック・モデル(topic modeling)を適切に用いるには、組織文化を分類して捉える必要があることが判明した。そのため、2021年度は、リスク・コミュニケーションに関わる組織文化に焦点を絞り、日米合計30社の年次報告書における”risk factors”の報告に用いられたテキストを分析することとした。分析結果は論文にまとめ、2022年5月にフランス(パリ)で開催される第72回国際コミュニケーション学会(ICA=International Communication Association)年次大会に投稿した結果、その発表が認められた。なお本論文は、この学会の異文化コミュニケーション部門(Intercultural Communication Division)において4編のTop Papersの一つに選ばれるという栄誉を受けることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は前年度に完成した論文を専門誌に投稿し、この研究成果を社会に広く発信する予定である。また、組織文化のリスク・コミュニケーション 以外の側面に関わるテキストの分析にも着手する予定である。その成果を年内にはまとめ、本プロジェクトの最終年度を締めくくる予定である。
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