2020 Fiscal Year Research-status Report
義利合一の経営哲学の探究:儒学を媒介としたグローバル経営倫理の構築に向けて
Project/Area Number |
20K01877
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
田中 一弘 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 教授 (70314466)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 義利合一 / 先義後利 / 渋沢栄一 / 経済士道 / 公への奉仕 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、渋沢栄一らが唱えた儒学概念でありかつ経営哲学である「義利合一説」(=道徳経済合一説)を、現代の経営学(経営倫理)の観点から学術的に探究しようとするものである。営利を前提とする資本主義/市場経済システムの中で、様々な責任の履行や社会的課題の解決への貢献を求められる現代の企業にとって、営利活動と倫理・道徳とを共に追求していくための理念的基盤は必要不可欠である。そうした基盤を提供する「新たな」枠組みとして義利合一説は現代的意義を、グローバルにも、十分持ちうるものである。 令和2年度は、義と利を合一させる要諦が「先義後利(義を先にして利を後にする)」にあることを、義利合一説を唱えた渋沢栄一や漢学者・三島中洲の所説を丹念に分析することによって改めて確認した。その上で、渋沢による「実業道=武士道」説に加え、T.カーライルの「Captains of Industry(産業の指揮官)」論及びA.マーシャルの「経済騎士道」論を統合するものとしての「経済士道」という概念について詳細に考究した。「経済士道」とは研究代表者が打ち出した概念(造語)であり、「公への奉仕」などの「義」を先にして、その結果として「利」を得ることを志向する経済活動を実践することである。ここでいう「先」「後」は、時間的前後関係のみならず価値的優劣関係をも意味する。ここで重要なのは、利を「後にする」ことは利を「軽視する」ことを意味しない、ということである。価値的優劣関係における先義後利とは、利よりも義の方を重んずるという相対関係を言っているに過ぎない。利そのものの価値を十分認め、かつ利を得る責任を帯びてその責任を全うしようとするのが経済士道の実践者である。渋沢の歩んだ道はまさにこれであった。同様のスタンスは、例えば松下幸之助や稲盛和夫といった戦後日本の優れた経営者にもみられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は、コロナウィルス感染症拡大に伴う様々な制約の下、関連文献の読み込みと「経済士道」概念の着想・展開・掘り下げに全力を傾注した。揺籃期の概念が形を成すプロセスのただ中にいた、というのが令和2年度の研究の状況であった。そのため、この段階では特定の論文等の成果を生むまでには至っていない。しかしこの1年間の考究を通じて「先義後利の経済士道」のさしあたっての全体像を明らかにすることができたと考えている。特に、何を以て経済士道を特徴づける「義」とするかが明らかになったことから、先義後利をかなり具体的かつ実質的に論じることができるようになった。 これら一連の考察を経て、年度末には経済士道に関する著書の構想を立案することができた。 以上のことから、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、引き続きコロナ禍による制約が続くことが予想されることから、前年度の研究成果を踏まえた「先義後利の経済士道」に関する著書の執筆に集中することとしたい。特に「先義後利」の最も重要な具体的側面である「公益第一、私利第二」というスタンスについて、何人かの優れた経営者の所説にもあたりながら、その有効性や普遍性も含めて考究することを、令和3年度の中心的な取り組み課題とする。 その上で、「先義後利」の他の側面にも議論を拡げ、さらにはこうした「先義後利の経済士道」が、現代の企業が直面する様々な経営課題にどのような示唆を与えるかにも論及していくことになる。これらについては、令和3年度内に着手できることが理想ではあるが、研究の進捗状況によっては令和4年度の課題となるかもしれない。 これらの成果を令和4年度内に書籍の形で刊行することを計画している。その成果を元に、最終年度である令和5年度には、「グローバル経営倫理」としての「経済士道」の可能性を探究する予定である。
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Causes of Carryover |
令和2年度は、コロナウィルス感染症拡大により、国内外への出張(学会参加及びインタビュー等)が出来なかったことが、次年度使用が生じた最大の原因である。同じ状況は令和3年度にも続くことが予想されるが、状況が許すようになれば、国内での資料収集及び研究者との意見交換を進めたいと考えている。また、オンラインでの遠隔コミュニケーションの充実に資する機器の購入をも図りたい。
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Research Products
(1 results)