2021 Fiscal Year Research-status Report
日本企業のイノベーションにおける専有可能性問題の変容に関する研究
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20K01881
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
永田 晃也 九州大学, 経済学研究院, 教授 (50303342)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | イノベーション / 専有可能性 / 技術機会 / 特許制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究で使用するデータは、当初計画通り文部科学省科学技術・学術政策研究所の2020年度「民間企業の研究活動に関する調査」に所要の質問項目を組み込むことにより取得し、このデータを用いた基礎的な集計結果に基づく報告書の分担執筆を、本年度初めにかけて実施した。集計結果から以下の点が明らかになった。 ①イノベーションから得られる利益の専有可能性を確保する方法については、新製品導入と新工程導入の双方において「製造設備やノウハウの保有・管理」の有効性が最も高くなっている。この点は、「製品の先行的な市場化」の有効性が最も高く評価されていた1994年調査の結果と大きく異なっている。 ②自社のイノベーションに対して競合他社がキャッチアップする期間(模倣ラグ)は、イノベーションを特許化した場合、新製品導入では3.5年、新工程導入では3.2年であり、特許化しなかった場合は、新製品導入で2.6年、新工程導入で2.5年である。これらの模倣ラグは、いずれも前回調査結果より長期化している。 ③新規プロジェクトの提案や、既存プロジェクトの遂行に寄与する情報の取得(技術機会)があった情報源については、「顧客」の重要性が高く、これに次いで「大学」の回答割合が高くなっている。情報源としての顧客の重要性の高さは前回調査結果と同様であるが、「社内の生産・製造部門」などの社内情報源の重要性が大幅に低下し、代わって大学の重要性が顕著に増大した点が特徴的な変化である。 以上の点から、日本企業のイノベーションにおける専有可能性等の決定要因が過去四半世紀の間に大きく変化したことが窺える。特に模倣ラグが長期化したにも関わらず先行的な市場化の効果が減退したという点は、イノベーションが利益を生み出し難くなったという深刻な事態を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に引き続き新型コロナウィルス感染対策のため、研究協力者等との研究打ち合わせはオンラインでのやり取りが中心になったが、結果的にコミュニケーションには大きな支障も生ぜず、当初計画通り研究は進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度「民間企業の研究活動に関する調査」報告書の作成後、文部科学省より個票データの利用許可を得て、現在、より詳細な分析を進めている。2022年度中には、その分析結果を科学技術・学術政策研究所のディスカッション・ペーパーとして公刊し、並行して学会発表等を進める予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染防止対策のため、対面による研究打ち合わせの機会が限定され、主としてオンラインによる研究打ち合わせを実施したことから旅費の支出が当初計画を大きく下回ったことが主な理由である。補完的な調査の実施や、投稿用英語論文の校正費用などの有用な使途に経費を当てることとしたい。
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