2020 Fiscal Year Research-status Report
ベトナム鉄鋼業における外資企業の適応的市場創造と社会的受容:後発性利益実現の条件
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20K01905
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
川端 望 東北大学, 経済学研究科, 教授 (20244650)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ベトナム鉄鋼業 / 国有企業 / 民間企業 / 外資企業 / イノベーション / 貿易・資本自由化 / グローバリゼーション / 環境問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の最大の成果はDevelopment of the Vietnamese Iron and Steel Industry Under International Economic Integrationの出版である。国際会議発表論文としてエントリー資格を得た上で,編集委員会査読を通過して単行書に収録された。本論文は,グローバリゼーション下においてベトナム鉄鋼業がいかに発展を遂げたかを,企業類型別分析によって明らかにしたものである。国有企業の衰退とリストラクチャリング,民間企業のイノベーション,外資企業の資本・技術移転と市場創造についてそれぞれ分析を行った。このうちの外資企業論に本研究の端緒的成果が含まれる。ただし,詳細な研究結果と言うよりは,広く議論を惹起するための問題提起という性格を持ったものである。これを土台として,外資企業の適応的市場創造と社会的受容について,より詳細な事例分析と理論的総括が必要である。 研究テーマを実施するうえで,鉄鋼業の生産システムの諸類型とそれらが構成する一国の生産構造について,より詳細な理解が必要であると考えた。その分析を世界最大の生産・市場規模を持ち,多様な技術・生産システムを包摂している中国鉄鋼業について行ったのが「現代中国鉄鋼業における生産システムの多様性」である。また,グローバル競争と気候変動という重大課題に直面する鉄鋼業の在り方を,課題が先鋭化している先進国について知っておくことが必要と考えた。その分析を日本を事例として行ったのが「日本鉄鋼業の現状と課題」である。これらにより,鉄鋼業の生産システム,生産構造についての社会科学的理解が深まり,またグローバリゼーションと環境問題の先鋭化の下での鉄鋼企業の行動様式についての重要な知見を蓄積できた。この蓄積は,ベトナムの事例により深く切り込むことを可能とするものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度の研究計画は,以下の2点であった。1)資料収集と読み込みを行う。先行研究,書籍・論文,統計データ,報道記事の解析により,グローバリゼーション下の工業化とベトナム鉄鋼業に関わるサーベイを行う。2)専門家との意見交換のためにロン氏を招聘し,ベトナム鉄鋼業全体の産業政策に携わる見地からの意見をいただく。このうち1)については予定通りに実施し,外資企業の「適応的市場創造」と「社会的受容」に関わる理論問題や諸国の経験について一定の知見を得ることができた。加えて,端緒的成果を論文化し,Springerから発行される書籍に収録することもできた。しかし,2)については,新型コロナウイルス感染症の流行により,ロン氏をベトナムから招聘することは不可能となり,実施できなかった。そのため止むを得ず,文献収集をより広範にして,参照事例としての他国鉄鋼業の調査・分析に力を入れ,成果もあげることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画では,2021年度は主に現地調査とその準備,事後のまとめ作業を行うことになっている。しかし,新型コロナウイルス感染症の流行が収束しなければ,日本からベトナムに入国すること自体が困難であったり,また入国には2週間等の隔離期間が必要となるおそれがある。このため,現地調査が実施できないおそれがある。 現地調査を実施できない場合は,日本国内で収集できる文献,資料,ヒアリング情報のみによって研究を進め,研究成果をあげられるように努力することとなる。対応策としては,情報不足が研究の完成を妨げないように,研究題目を損なわないことを前提に,研究対象事例,研究対象時期を微調整することが考えられる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行により,海外での調査・成果発表のための出張はもとより,国内での調査・成果発表のための出張もほぼ不可能となった。このために,旅費を一切執行しなかったことが,次年度使用額発生の原因である。2021年度分の助成金と合わせ,流行の収束状況を見極めながら適正な執行に努めたい。
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