2021 Fiscal Year Research-status Report
ベトナム鉄鋼業における外資企業の適応的市場創造と社会的受容:後発性利益実現の条件
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20K01905
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
川端 望 東北大学, 経済学研究科, 教授 (20244650)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ベトナム鉄鋼業 / 中国鉄鋼業 / 日本鉄鋼業 / 生産システム / 産業政策 / 過剰能力 / 地球温暖化 / 脱炭素 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は,新型コロナウイルス感染症の流行の継続のため,本来予定されていたベトナム調査を断念せざるを得なかったため,研究課題の理論的領域や周辺部を扱う研究に専念した。 世界鉄鋼業と,外資のベトナム進出を大きく規定しているのは,最大の製鉄国中国の動向である。また最大の製鉄国であることから,その事例分析を通して産業研究の理論的方法の探求も進めることができる。これらの探求を進める2本の査読付き学術論文を発表した。川端望・銀迪「現代中国鉄鋼業の生産システム: その独自性と存立根拠」では,多様な鉄鋼生産システムの複合として一国の鉄鋼生産構造を明らかにする方法論を確立した。そして,世界最大の製鉄国である中国において中小型システムが優位に立っていたこと,しかしそれは原料供給と製品需要に対応した合理的なものであったことを明らかにした。川端望・銀迪「中国鉄鋼業における過剰能力削減政策―調整プロセスとしての産業政策―」では,調整プロセスとしての産業政策という観点を打ち出した。そして,公表情報からはわかりにくい中国鉄鋼業における過剰能力削減の実際の到達点を解明するとともに,数量目標の絶対視と設備規模基準の淘汰という中国政策当局の手法に重大な問題があることを明らかにした。 また日本政府,日本鉄鋼業界がカーボンニュートラルを宣言したことを受けて,鉄鋼業が今後迫られる変容を簡潔に明らかにしたのが川端望「脱炭素時代に日本鉄鋼業はどう変わるか」である。 本年度は,ベトナムの実態調査が困難という非常に強い制約のもとで,実証研究としてはやむを得ず収集可能な情報に基づく他事例の分析に集中せざるを得なかった。しかし,その中でも理論研究としては,生産システム研究,産業政策,脱炭素のイノベーションに関する解明に前進を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は,本来ベトナムにおける実態調査を行う計画であったが,新型コロナウイルス感染症の流行が続いたために,渡航することができなかった。ベトナム鉄鋼業の研究は文献情報が極めて限られており,現地調査に情報収集を依存しているため,研究の進捗は著しく妨げられた。やむを得ず,生産システム研究,産業政策研究,脱炭素に挑む鉄鋼業のイノベーションに関する研究などの理論的深化につとめ,それ自体としては学術的成果を上げた。とはいえ,本課題は,元来ベトナムを対象にすることを宣言した事例研究であるため,十分なものとは言えない。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は,ベトナムにおける実態調査になお困難が続く可能性を踏まえ,研究課題を維持しつつ,研究の時間的視野を現状分析から近過去の研究にシフトさせることで対応したい。対象時期を調整し,1990年代から2019年までとするのである。おりしもコロナ禍,米中通商摩擦,そしてロシアのウクライナ侵攻に始まる世界経済の分裂により,ベトナム鉄鋼業が発展の前提としてきた貿易・投資の自由化圧力が変容しつつある。ベトナム鉄鋼業における外資導入を時期区分する際に,1990-2010年代を「ポスト冷戦期グローバリゼーション」としてその前後と区分した上で一つの研究対象とすることが妥当性を増しつつある。本研究課題を維持しつつも,時間的視野を過ぎ去りつつある一時代の分析にシフトさせることで,すでに収集した資料を用いての研究がある程度可能になるものと考えられる。しかしながら,なお困難を完全に克服できる見通しがついたとは言えない。研究課題を完遂するためには,制度の許す限りにおいて補助事業期間延長の申請を行うことが必要になるかもしれない。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行により,海外での調査・成果発表のための出張は不可能であり,国内での調査・成果発表のための出張も著しく制約された。このために,旅費を一切執行しなかったことが,次年度使用額発生の原因である。2022年度分の助成金と合わせ,流行の収束状況を見極めながら適正な執行に努めたい。
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