2021 Fiscal Year Research-status Report
Genealogy of modern French control theory: paradox, business model, co-creation strategy
Project/Area Number |
20K02010
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大下 丈平 九州大学, 経済学研究院, 特任研究者 (60152112)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | マネジメント・コントロール / 管理会計 / フランス / パラドックス / ガバナンス / 横断性 / ビジネスモデル / 共創戦略 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実績を次の3点に整理することができる。 まず1点目は、フランスでは新しいコントロール論と管理会計論のそれぞれの誕生がほぼ時を同じくしていたことを改めて確認したことである。それは新しいコントロール論がそれに相応しい管理会計を求めたということである。それはまさに『レレバンス・ロスト』論争の時代であり、管理会計の危機が叫ばれた時であった。管理会計をより広範な管理情報システム内に組み込んで危機に対応することが目論まれることが大勢を占めるなかで、ブッカンのそれへの対峙方法は管理会計の本質的な属性(=統合モデルを提案する能力)を再認識することであった。これが第1の点である。 次に明らかになった第2の点は、パラドックスを組み込んだビジネス・モデルからコントロールの成功要因とリスク要因が要求されるようになり、これに対応するために管理会計は「横断性・統合モデル・原価分析網」の組み合わせを基礎に、管理情報システムのなかでも統合化の機能を果たすことによりパラドックスを緩和する重要な役割を担っていることが明らかにしたことである。 最後の第3点目は、そもそもコントロール論においてなぜパラドックス概念が持ち出されたのか、との本源的な問いに関わっている。ブッカンのコントロール論は4つの期間のどの場面においても「横断性」をパラドックスの契機として認識し、それを緩和・克服していくときにパラドックスを認識した。本研究では、ブッカンが4つの期間を(定立)としての現状認識、(反定立)としてのパラドックス認識、そして(総合)としての解決策という弁証法的な方法論で一貫させていると考え、そこにコントロール論においても「論理的思考」が社会的に構築されるといったフランス的独自性を見出した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね順調に進展している。それは以下の3つの理由からである。 一つ目は昨年度に続き、今年度も国内の会計関連学会で報告を行い、その成果をまとめることによって当該学会誌に投稿した。しかし、当該雑誌のレフリー達との考え方の違いから投稿を断念したことは残念であった。しかし、それに挫けることなく、気を取り戻してその研究成果を英訳し、カナダのHECモントリオールのフランス人教授に意見を求め、今後の共同研究を進める素材とすることを決定した。二つ目は、本年度(2021年)中に上述のカナダのHECモントリオールのフランス人教授達を中心とした共同研究プロジェクトにおいて成果を出すことに成功した。その成果が次の著作である。Sponem, S. et A.Pezet (ed.)Les Grands Auteurs en Controle de Gestion, Paris : Editions EMS, 2e edition, 2021 このプロジェクトは30人近いフランス人研究者達の研究集団であり、今回このグループに参加し、世界のマネジメント・コントロール論における巨匠達の理論を共にまとめることに貢献できた。これは本研究費助成事業の支援があったからだと考えている。最後に、思いがけないことに、長く研究活動を続けてきた会計学関連の学会の一つである日本管理会計学会から学会賞(功績賞)をいただいた。このことも、本研究費助成事業の支援の賜物であったと思っている。 以上より、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
コントロールと管理会計の関わりについてアングロサクソン諸国とフランスでは取り扱いを異にしており、前者(日本を含め)では、 管理会計論とコントロール論を明示的に区別しないことが多いのに対してフランスでは両者を峻別することが一般的である。 こうした状況のなかで、今後の研究の方向性は、現代フランスコントロール論の系譜を辿るなかで見出したパラドックス概念に改めて注目し、そのコントロール論において分析会計や管理会計がどのように位置付けられているのかを探り、そこからフランスのコントロール論の組み立ての特徴とそこでの管理会計論の特徴を明らかにすることにある。本研究ではコントロールのパラドックス性を「横断性」と「統合性」によって認識したが、これは比較国際管理会計論の視点からも興味深い論点を提示するだけではなく、コントロール論や管理会計論の将来的な行方を予想する手掛かりを得ることに繋がっているとの確信は益々強まっている。そして、本研究は、最終的にフランスコントロール論を次のように3部にまとめる構想を持っている。 第1部 コントロール論は原価計算・管理会計をどのように位置づけるか 第2部 コントロールのパラドックスの意義を改めて考える 第3部 ガバナンス・コントロールの構想とその意義 今後は、この3部構想を綿密に詰めていきたいと考えている。
|