2020 Fiscal Year Research-status Report
中小企業向け国際財務報告基準に基づく財務報告の有用性に関する理論的・実証的分析
Project/Area Number |
20K02018
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
林 健治 日本大学, 商学部, 教授 (60231528)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 中小企業向けIFRS / 簡素化アプローチ / 独立基準アプローチ / 模倣的同型化 / トリプル原則 |
Outline of Annual Research Achievements |
国際会計基準審議会(IASB)が公表する国際財務報告基準(IFRS)の任意適用企業がこの数年急激に増加した。国際的な事業展開をする我が国の大企業(上場企業,金融機関)が選択する会計基準の最有力候補は,米国GAAPではなく,完全版IFRSとなっている。世界的に見ても,GAAPの勢力地図はIFRS一色に塗り替えつつある。我が国においては,大企業向けの完全版IFRSの導入には積極的であるが,IASBが公表する中小企業向けIFRS(IFRS for SMEs)の適用を容認しておらず,中小企業向けIFRS導入には前向きではない。わが国の中小企業が選択可能な会計基準は,「中小企業の会計に関する指針」(「中小指針」)あるいは「中小企業の会計に関する基本要領」(「中小会計要領」)である。 中小企業の中には,独自の優れた技術・ノウハウを有し,世界的規模で活躍する企業もある。大企業に比して中小企業の事業者数,就業者数は圧倒的に多い。中小企業はわが国の経済成長を牽引する担い手であるとも言える。そこで,本年度は,国内外の関連文献をレビューし,中小企業向け会計制度の設計方法,中小企業向けIFRSの法域別採用状況・採用決定要因の分析を通じ,中小企業向けIFRSが,我が国中小企業の選択可能な会計基準の第3の選択肢となり得るかについて検討した。 IASBのボードメンバーであるDarrel Scott氏は,中小企業向けIFRSと完全版IFRSの調整をはかるトリプル原則(目的適合性,簡素化,忠実な表現)を基礎に,二段階アプローチの採用を唱えた。簡素化アプローチから独立基準アプローチへの移行が適宜行われれば,中小企業の実態に即した完全版IFRSの要約版が完成する可能性がある。中小企業向けIFRSが我が国中小企業の選択可能な会計基準の第3の選択肢となり得ることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マレーシア会計基準審議会(Malaysian Accounting Standards Board:MASB)は,2016年から国内中小企業に対し,中小企業向けIFRSとほぼ同等のマレーシア非上場財務報告基準(Malaysian Private Enterprises Reporting Standards:MPERS)とIFRSとほぼ同等のマレーシア財務報告基準(Malaysian Financial Reporting Standard:MFRS)の選択適用を認めている。マレーシアは,完全版IFRSおよび中小企業向けIFRSの導入に積極的な国であり,サンプルとして適切な国と考えられる。そこで,海外進出企業総覧データベースに収録されている法人からサンプルを抽出し,マレーシアに進出する日本企業のIR担当者,経理担当者とコンタクトをとり,マレーシアでの中小企業向けIFRS,MPERSの適用に関する現地調査を行う予定であった。 しかし,新型コロナ感染拡大防止のため,海外渡航,海外調査を実施できなかった。不急の外出自粛が要請され,例年通りに国内出張もおこなえなかった。そこで,フィールド・スタディーの代わりに,オンラインデータベース,公的な機関から入手した財務データ,およびマクロ経済データの分析,国内外の学術論文のレビューを中心に作業を進めるよう修正した。その結果,おおむね順調に進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
各国・地域(法域)が中小企業向けIFRSの採用を決定する要因が何かを,先駆的研究をレビューして検討した。大企業(上場企業,金融機関)向けの完全版IFRS(full IFRS)には,慣習法国家の会計思考が反映されていると言われる。英国を起源する会計モデルを持つ国(イギリス,アメリカ,オーストラリア,シンガポール,マレーシアなど)は,中小企業向けIFRSを採用する傾向があると推測される。大陸型モデルに属し,会計・財務報告規制と税制が密接に関連し,直接金融方式より間接金融方式が相対的に優位な国(たとえばドイツ,フランス,イタリア,オーストリア,日本など)は,中小企業向けIFRSを採用しない傾向があると予想される。 2013年現在における中小企業向けIFRSの国・地域別適用状況を調査した先行研究の検証結果によれば,法起源に関連する仮説は有意であった。しかし,確定決算主義に基づく法域は,中小企業向けIFRSを採用しない傾向がある,という仮説は有意でなかった。2013年以降,中小企業向けIFRSの適用を容認する法域が少しずつ増加している。先行研究の公表後,更新されたデータを基礎にしても,先行研究と同様の検証結果が得られるとは限らない。中小企業向けIFRSの法域内採用(アドプション)を決定づけるのは何かについて,今後,追加的に検証する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染拡大防止のため,令和2年度は国内出張,海外出張ができず,旅費支出がなかった。また,外出自粛が推奨され,出校して旅費以外の申請を行うことがままならず,その他の費用も当初の予定より少なくなった。令和3年度は,新型コロナ感染も収束に向かうであろう。感染状況をみて,国内出張をおこない,フィールド調査を実施し,令和2年度繰越分を含めて旅費予算を執行する。 中小企業向けIFRS採用決定要因に関する実証的分析をおこなうため,S & P社のCapital IQまたはEconomist Intelligence Unit(EIU)社の Country Dataのアーカイブ・データ利用契約を新たに結び,GDP,対外直接投資,対内直接投資などのマクロ経済データを入手する。東洋経済新報社のオンライン海外進出企業データベースの契約を継続する。
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Research Products
(2 results)