2021 Fiscal Year Research-status Report
中小企業向け国際財務報告基準に基づく財務報告の有用性に関する理論的・実証的分析
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20K02018
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
林 健治 日本大学, 商学部, 教授 (60231528)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 整合性原則 / 文化的価値次元 / 保守主義 / 概念フレームワーク / 簡素化アプローチ / 独立基準アプローチ |
Outline of Annual Research Achievements |
国際会計基準審議会は2020年1月に,中小企業向けIFRS(IFRS for SMEs)適用後のレビューの一環として,中小企業向けIFRSの包括的レビューに関する情報要請(RFI)を公表し,コメントレターを募集した。RFIの趣旨は,3つの整合性原則(目的適合性,簡潔性,表現の忠実性)を適用し,中小企業(非公開企業)向けIFRSと大企業(公開企業)向けの完全版IFRSを整合させるべきかについて,幅広く意見を収集することであった。 2022年4月現在において,完全版IFRSを導入する国・地域は,世界の87%(144/166)に達するが,中小企業向けIFRSを導入する国・地域は,世界の52%(87/166)にとどまる。IASBが当初の提案どおり整合性原則を適用し,中小企業向けIFRSを改訂・更新したとして,改訂・更新後の中小企業向けIFRSが世界各国で浸透するかは,従前において,中小企業向けIFRSの適用を強制も容認もしない国・地域の会計基準設定機関の賛同が得られるかが鍵となるであろう。そこで,中小企業向けIFRSの非採用国,とりわけ日本,カナダの中小企業(非公開企業)向け会計規制と会計基準選択状況について検討した。また,中小企業向けの適用が容認されない理由を先行研究から探った。 中小企業庁事業環境部企画調査室が行った調査によると,中小会計指針より中小会計要領を選好することが明らかとなった。それは有価証券・棚卸資産に関する両基準の相違,不確実性回避する文化的要因に起因し,保守主義的処理を好むと推計された。 カナダの会計基準審議会(AcSB)は,非公開企業に対し,完全版IFRSとは別のカナダ独自の基準を適用する選択肢を与えた。公開企業と非公開企業の財務諸表の利用者・財務報告の目的は異なる。公的説明責任を有しない中小企業には,大企業とは別の取引ベースの概念フレームワークを整備すべきである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マレーシア会計基準審議会(Malaysian Accounting Standards Board:MASB)は,Malaysian Private Entities Reporting Standard (MPERS)という中小企業向けIFRSとほぼ同等の基準の適用を公表し,2016年1月1日からマレーシアは,中小企業向けIFRS採用国となった。2021年度にはマレーシアに子会社,支店,営業所を置く日系企業を対象に,現地調査を行う予定であったが,諸事情により海外渡航ができず,現地調査を実施できなかった。 そこで,国際会計基準審議会(IASB)の中小企業向けIFRS改訂アプローチについて検討することにした。IASBは,「中小企業向けIFRSの包括的なレビュー」というタイトルの情報要請(RFI)を2020年2月に公表し,3つの原則(目的適合性,簡潔性,表現の忠実性)にしたがい中小企業向けIFRSと完全版IFRSの整合性を保持することを提案し,コメントを募集した。IASBは,この提案について寄せられたコメントの集計結果を開示しているが,各国会計基準設定機関がどのようなコメントをIASBに寄せたかは明らかにされていない。 整合性原則にもとづくIASBの中小企業向けIFRS改訂アプローチが受け入れられ,公開企業向けの完全版IFRSとの整合性を保つ改訂版中小企業向けIFRSが世界に浸透するには,中小企業向けIFRS非採用国の会計基準設定機関の賛同が不可欠であると考えられる。 中小企業向けIFRSの適用を強制または容認しない国のうち,カナダと日本に焦点をあてて,カナダと日本の中小企業向け会計基準の概要,非公開企業にかんする会計制度設定の背景にある論理を吟味した。中小企業向けIFRSの最新動向をキャッチアップでき,おおむね順調に研究は進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度には,主として実証的アプローチを採用し,仮説を立てて以下について検証を試みる。洗練された国内基準,証券市場をもたない国は,中小企業向けIFRSを導入する傾向がある。IASBが設定する会計基準に準拠していることが世界銀行から融資を受ける際の条件の一つになっていることから,外部資金への依存率とIFRS for SMEs の導入は正の相関を示す。すでに上場企業・金融機関に対し,完全版IFRSを適用し,連結財務諸表を作成することを義務付けている国・地域は,中小企業向けIFRSを導入する傾向がある。日本のように確定決算主義が採用され,会計制度と税制が密接に関連する国・地域は,中小企業向けIFRSの導入には積極的ではない。ガバナンスの質が高い(政治体制が安定している,十分な法規制をもち,財務報告基準・監査基準が高品質である)国・地域は,中小企業向けIFRSをを導入しない傾向が見られる。上記の仮説を検証するため,人口1,000人当たりの中小企業数,国民一人当たりのGDP,GDPに 占める海外直接投資(FDI)インフローの比率,教育期間,慣習法国家であるか否かなどの変数を追加する。 中小企業向けIFRSの採用国(adopters)と非採用国(non-adopters)の間で相違があるかについて,ノンパラメトリック検定を 行う。当該国・地域に中小企業向けIFRSが導入・適用されていれば1,導入・適用されていなければ0とする ロジスティック回帰分析を行う。Hofstedeの研究成果を援用し,独立変数としてマクロ経済変数のほかに文化の価値次元(権力格差,個人主義,不確実性回避,男性的思考,長期的志向,充足的)を含める。 また,2022年度には,中小企業向けIFRS導入の可否,メリット・デメリット,課題に関するアンケート調査結果をまとめた先行研究をレビューし,類似の質問調査を実施する。
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Causes of Carryover |
2021年度には,新型コロナウイルス感染拡大防止のため海外渡航ができず,国内出張もままならなかった。そのため2021年度には,旅費を申請することができなかった。また,旅費以外の申請手続きも迅速に行えなかった。これらのために未使用額が生じた。 2022年度には,状況が好転すれば,海外渡航を実施し,国内出張をおこなう。企業の財務・経理担当者に向けて郵送によりアンケート調査を実施する。未使用額を旅費,アンケート調査にかかる郵送料,中小企業のデータベース使用料に充てる。
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Research Products
(1 results)