2022 Fiscal Year Research-status Report
経営者報酬契約における会計情報の役割の再検討:報酬ガバナンスの強化に関連して
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20K02028
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
乙政 正太 関西大学, 商学部, 教授 (60258077)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩崎 拓也 関西大学, 商学部, 教授 (30611363)
椎葉 淳 大阪大学, 大学院経済学研究科, 教授 (60330164)
首藤 昭信 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 准教授 (60349181)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 経営者報酬 / 業績予想 / ESG指標 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究では,自主的な情報開示として役員報酬の減額あるいは役員報酬の返上がどのような理由でどれくらいの頻度で行われているかを調査した結果を踏まえ,それが業績予想の修正報告とどの程度関連しているか,また株価の反応にどれくらい影響しているかを調査しようとした。しかしながら,業績予想の修正を行う公表日と役員報酬の減額を行ったことを示す報告日との一致数が少ない状況にあった。役員報酬の減額の大きな理由は業績の悪化であるが,悪化の報告時期と役員報酬の減額決定には時間的差があることがわかった。 2022年度には,そのような調査と並行する形で,ESG指標に基づく経営者報酬に関してデータを収集を行い,日本におけるESG指標に基づく経営者報酬制度の意義を検討してみた。持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた取り組みが世界的に注目されるなか,企業には社会的責任活動や社会的利益への配慮がますます求められるようになってきている。しかし,SDGsや環境・社会・ガバナンス(ESG)を意識した経営を企業が実際に展開するためには,目標を掲げるだけではなく,それと整合的なさまざまな制度が企業内に組み込まれる必要があると考えられる。そのような重要な制度の一つとして,ESG指標に基づく経営者報酬制度の構築を指摘することができる。その点について実務的視点から,ESG指標に基づく経営者報酬制度に関する背景を確認し,また,日本におけるESG指標に基づく経営者報酬制度の導入状況をサーベイすることにした。追加的に,SG指標に基づく経営者報酬制度導入の決定要因について実証的に検証することも行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2011年1月期から2019年12月期までの間に,役員報酬の減額に関する適時開示を実施する企業を抽出し,その公表日が業績予想の下方修正日とどの程度一致するかを検討してみたが,その一致数は必ずしも多いわけではないことがわかった。役員報酬の減額の大きな理由は業績の悪化であるが,悪化の報告時期と役員報酬の減額決定には時間的差があり,役員報酬の減額と業績予想修正との直接的な関係性はさほど高くなかったかもしれない。ただし,単なる業績予想の下方修正に比べて,役員報酬の減額を伴う業績予想の下方修正では大きな株式リターンの低下があることがわかった。 ESG指標に関しては,今後ますます重要になると予想されるSDGsやESGを意識した経営を実効性のあるものにするための手段として,経営者報酬制度の意義に関する基礎的証拠を提供することである。結果の一つとして,ESG指標に基づく経営者報酬制度を導入している企業であっても,多様なステークホダーを広く考慮しておらず,また開示されている情報からは,ESG指標が客観的に測定され適切な業績評価が行われていることを外部から十分に監視できないという結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
データの収集作業がほぼ終わってきたが,役員報酬の減額と業績予想の修正の関連性を探ることは難しくなってきたので,業績予想の修正 (バッドニュースだけではなくグッドニュースも含めて) がどのような株価反応をするかをについて仮説と検証を行う。 また,ESG指標に基づく経営者報酬制度については,徐々に導入企業が増加してきており,その動向や有効性はまだまだ追い続けなければならない。関連分野の先行研究をレビューしながら共同研究のメンバーと議論を重ねていきたい。来年度は研究最終年度になるので,財務報告を取り巻く環境の変化を意識しながら,会計情報の役割に関する研究についての整理と新しい地平を開くためにはどのようなテーマがあるかも確認していきたい。
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Causes of Carryover |
少額のものについて,今年度の研究準備のために繰り越している。
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