2020 Fiscal Year Research-status Report
経営者予想誤差の持続性と実物投資の効率性に関する研究
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20K02029
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Research Institution | Hannan University |
Principal Investigator |
中條 良美 阪南大学, 経営情報学部, 教授 (00387383)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 経営者予想誤差 / 持続性 / 実物投資の効率性 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、仮説の構築に必要な先行研究の渉猟と分析に必要なデータの収集を中心に、研究活動を展開した。まず先行研究の分析から、経営者予想誤差には、経営者の予測能力を測定する上で、2つの含意が伴うことが明らかにされた。第一に、経営者予想の誤差に時系列で正の相関が見られる場合、それは過大評価にせよ過小評価にせよ同様の間違いを繰り返す傾向があることを示す。このような状況では、投資活動の将来性についても正確に見通すことが難しいと考えられる。したがって、経営者予想誤差に時系列での正相関が内在する場合、その程度が大きいほど、経営者は投資意思決定に失敗する可能性が高い。この考察から、投資の効率性を示す指標は、経営者予想誤差の時系列相関の大きさと反比例することが予想される。 しかし第二に、経営者予想誤差は、将来見積もられる収益認識時点の誤りに起因する可能性もある。経営者予想は主に1年後の利益に焦点を合わせているが、それは資本予算の長期計画の一部に過ぎない。将来のペイオフの推計は総体として正確であっても、それが実現する時点については、計画遂行上遅延が生じたり前倒しされたりする場合がある。したがって、1年後の利益予想が不正確であっても、トータルで見たペイオフの予想が正確であれば、経営者の予測能力は劣っていないことになる。このとき、現在観測される経営者予想誤差は、将来時点で実現されることになる。この可能性を考慮に入れて、今後の計画では、現在の経営者予想誤差と将来利益との関係を変数として取り上げる予定である。 次に、仮説の検証に必要な投資活動とその成果に関する財務データは、順調に収集することができた。次年度は、収集されたデータをもとに、仮説の実証分析を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で論じたように、仮説構築に必要な先行研究の分析と財務データの収集は、概ね順調に進捗している。なお、経営者予想誤差に将来利益に対するインプリケーションが含まれる可能性が明らかにされたので、これをコントロールすることで、仮説の検証結果がよりノイズの少ないものとなることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で実物投資の効率性を判定する指標(キャッシュ・フロー感応度や均衡投資水準からの乖離など)が明らかにされたので、その知見をもとに、被説明変数を複数種類作成する。実物投資の効率性に影響する諸要因をコントロールした上で、経営者予想誤差の時系列相関に対する重回帰分析を試みる。その結果、経営者予想誤差の時系列相関の係数が投資の効率性に対して負の符合を取るなら、この相関の大きさが経営者の将来予測能力を測定する新たな指標となることが確認される。 それとともに、過去の経営者予想誤差がその後の利益によって、どの程度実現されたのかを検証する。予想誤差が時点予測の誤りに起因するのであれば、現在の予想誤差は経営者の予測能力の欠陥を直ちに意味しない。したがって、経営者予想誤差が将来利益と関係する程度をコントロールした場合も、上記の推論が成立するのかどうかを明らかにする。それによって、経営者の予測能力を判断する指標の信頼性が向上するものと期待される。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の影響で、学会出張などが行えなかったので、若干の次年度繰越額が生じた。これについては、次年度の旅費等に充当する予定である。
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