2020 Fiscal Year Research-status Report
Effects of stakeholders' involvement in audit-related international standard setting on those standards implementation
Project/Area Number |
20K02034
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
福川 裕徳 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 教授 (80315217)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 国際監査基準 / 国際会計士倫理基準 / 基準設定 |
Outline of Annual Research Achievements |
財務諸表監査の有効性をグローバルに担保するためには、国際監査基準や国際会計士倫理規程などの国際基準が各国において有効にインプリメンテーションされていることが必要である。本研究は、国際基準の設定に対する各国利害関係者の関与の程度が、その国における国際基準のインプリメンテーションの有効性に与える影響を検討することを目的としている。 令和2年度は、第1段階として、利害関係者の関与の程度を測定するために、国際会計士倫理基準審議会が設定している国際会計士倫理規程に着目し、2012年以降に基準の新設や改訂のプロセスにおいて公表された19の公開草案を取り上げて、それに対する回答状況を調査した。 この調査の結果、19の公開草案に対して、152の主体から合計で959の回答があった。1公開草案あたりの平均回答数は50.5であり、幅は26から77であった。19の公開草案のうち15以上に回答した主体が27あり、合計で462(全体の回答の48.2%)の回答を行っていた。27回答主体の属性としては、職業専門団体が14、会計事務所が8、基準設定者と規制当局がそれぞれ2、国際団体が1であった。これを国別に見ると、グローバルが9、イギリスが4、オーストラリア、ドイツ、南アフリカ共和国がそれぞれ2、アメリカ、カナダ、香港、シンガポール、韓国、マレーシア、ニュージーランド、日本がそれぞれ1であった。 この結果は、基準設定プロセスに継続的に関与している主体が比較的少数の国の特定の主体に偏っていることを示している。また、監査利用者や財務諸表作成者、コーポレート・ガバナンス担当者といった利害関係者や上記以外の国の利害関係者は、新設・改訂される基準が自らに関係する場合にのみ公開草案に対して回答していることが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
基準設定プロセスへの関与のあり方としては、①ボードメンバーとしての関与、②基準設定主体の監視団体への関与、③公開草案へのコメント送付を通じての関与、④よりインフォーマルな機会を通じての関与(ラウンドテーブルなどへの参加等)などが考えられる。当初の計画では、国際会計士倫理基準審議会を対象として、監査プロフェッショナル(公認会計士)、監査事務所、職業専門団体、規制当局、学識経験者等多様な利害関係者へのインタビューと関連文献の調査を行うことを予定していた。より具体的には、特に①と関連して、ボードメンバーへのインタビューから始めることを想定していた。 しかしながら、コロナ禍の影響により、インタビューのための海外出張ができなかった。オンラインでのミーティングによりインタビューを実施することも不可能ではなかったが、そのアレンジを含め効率的ではないと判断した。そのため、計画を変更し、インタビューに先立って、上記③との関係で、公開草案へのコメントに焦点を当てることとした。幸いなことに、2012年から現在までの公開草案に対するすべての回答(合計959)は国際会計士倫理基準審議会のホームページで公開されている。これを入手し、回答者の属性、国、コメント内容などの観点から分析を進めている。 当初の予定とは順序の変更を余儀なくされたが、利害関係者へのインタビューも、公開草案への回答の分析も、本研究において計画されていたものであり、研究の進捗自体には大きな影響はなかったと言える。また、公開答案へのコメント内容を分析することにより、インタビューで明らかにすべき新たな論点も特定されている。結果として、公開草案への回答の分析をインタビューに先立って行ったことは、本研究を効率的に実施する上では適切であった。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究において実施すべきこととして、以下の4つを計画している。 第1に、現在進めている公開草案に対する回答の分析を進める。すでに回答全体に関する状況、回答者の属性、国、回答回数の分析は終えているものの、コメント内容についての定性的な体系的な分析は完了していない。公開草案の内容にかかわらず回答している利害関係者は比較的少数で、多くの国の多くの利害関係者は自らに関心がある基準の新設・改訂についてのみ回答しているように思われる。したがって、基準設定に対する各国利害関係者の関与の程度と、その国における基準のインプリメンテーションの有効性との関係を分析するためには、公開草案で提案されている新設・改訂基準の内容と公開草案に対する回答内容とを考慮しなければならない。 第2に、基準のインプリメンテーションの有効性を測定するための尺度の開発に取り組む。各国において、国際基準をアドプションしているかどうか、あるいはどの程度アドプションしているかについては、比較的容易に調査することができる。しかし、基準のインプリメンテーションの有効性は、必ずしも基準のアドプションの状況とは一致しない。基準のインプリメンテーションの有効性を測るには、たとえば、当該基準が各国内でどのように位置づけられているのか、基準に違反した場合の処分や責任はどうなっているのかといった要因による必要がある。 第3に、コロナ禍を巡る状況が改善し海外出張が可能となった折には、多様な利害関係者に対するインタビューを実施する。そこでは、各国ごとの基準設定への関与のあり方とその後の当該国におけるインプリメンテーションの実態を解明することに焦点を当てる。 第4に、これまで国際会計士倫理基準審議会(国際会計士倫理規程)を対象として実施してきた研究の範囲を、国際監査・保証基準審議会(国際監査基準)にまで拡張する。
|
Causes of Carryover |
当該年度においては、国際基準設定主体のボードメンバーをはじめとして、国際基準設定プロセスに関心を有する各国の利害関係者へのインタビューを計画していた。しかしながら、コロナ禍の影響により、インタビューのための海外出張ができなかった。したがって、予定していた旅費を使用することができなかった。
|