2021 Fiscal Year Research-status Report
Effects of stakeholders' involvement in audit-related international standard setting on those standards implementation
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20K02034
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
福川 裕徳 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 教授 (80315217)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 国際会計士倫理規程 / 国際監査基準 / 基準設定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、財務諸表監査に関する国際基準(国際会計士倫理規程や国際監査基準)の設定に対する各国利害関係者の関与の程度が、その国における国際基準のインプリメンテーションの有効性に与える影響を検討することである。 令和3年度は、まず第1に、検証仮説の精緻化に取り組んだ。そこで設定した仮説は、「特定の国において、国際基準の設定に対する利害関係者の関与の程度が高いほど、国際基準のインプリメンテーションの有効性は高い」である。ここで注意すべきは、「利害関係者の関与の程度」と「インプリメンテーションの有効性」との関係を因果関係ではなく、相関関係と捉えていることである。当初は、両者の間に因果関係を想定していたが、検討を進めた結果、内生性の問題を満足のいくレベルで克服することが困難であると結論づけるに至った。 第2に、「インプリメンテーションの有効性」の測定に取り組んだ。これは定量的に測定することが困難な多面的概念である。この概念の性質に照らすと、単一的な尺度をもって測定することは適切ではない。令和3年度の研究では、腐敗(汚職)と国際基準のアドプションという2つの側面からその測定を試みた。前者は、Transparency Internationalが公表している各国のCorruption Perceptions Indexを、後者は、国際会計士連盟が公表している国際基準のアドプション状況を、代理変数として用いようとするものである。これらはいずれも単独では満足のいく代理変数ではないが、複数の変数を組み合わせることで適切な測定が可能になると考えている。 第3に、「利害関係者の関与の程度」を測定するために、令和2年度から行ってきた国際基準の公開草案に対する回答の分析をさらに進めた。特に、回答のテキストのトーンを分析することによって、国レベルでの関与のあり方の測定を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
基準設定プロセスへの関与のあり方としては、(1)ボードメンバーとしての関与、(2)基準設定主体の監視団体への関与、(3)公開草案へのコメント送付を通じての関与、(4)よりインフォーマルな機会を通じての関与(ラウンドテーブルなどへの参加等)などが考えられる。当初の計画では、国際会計士倫理基準審議会を対象として、監査プロフェッショナル(公認会計士)、監査事務所、職業専門団体、規制当局、学識経験者等多様な利害関係者へのインタビューを行うことを予定していた。より具体的には、特に(1)と関連して、ボードメンバーへのインタビューから始めることを想定していた。 しかしながら、コロナ禍の影響により、令和2年度に引き続き海外出張ができず、インタビューを実現できなかった。そのため、研究計画全体を見直し、インタビューに代えて、公開草案への回答(コメント)の分析のみによって「利害関係者の関与の程度」を測定することした。データとして用いる公開草案への回答自体は国際基準の設定主体のホームページで公開されている。この公開草案への回答を素材としてテキスト分析を行うことによって、またそれを回答者の属性(規制当局、専門職業団体、会計事務所、情報利用者など)と関係づけることにより、国レベルでの国際基準設定への関与のあり方を測定することとした。 テキスト分析を行うことは当初は予定していなかったため、手法の習得を含めて時間を要している。この計画変更に伴い、研究の進捗に若干の遅れが見られる。したがって、研究期間を1年延長することも含め、対応を検討中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では以下の3つを実施する。 第1に、公開草案に対する回答のテキスト分析を進める。特に、テキストのトーン(ポジティブ、ネガティブ)を単語レベルで分析する。公開草案には、提案された基準改訂の内容について、賛否に関する問いが設定されていることが多い。そうした問いに対する回答テキストを分析することによって、提案された改訂に対して、どの程度ポジティブあるいはネガティブに反応しているのかを把握することができる。定量化するには工夫が必要であるが、他分野での先行研究を参考に単語数等に着目した測定を試みる。 第2に、基準インプリメンテーションの有効性の測定に継続的に取り組む。現時点では、腐敗(汚職)(corruption)と国際基準のアドプション状態に着目している。前者に関して、腐敗のレベルが低いことは、必ずしも国際基準が有効にインプリメンテーションされていることを意味するものではないが、両者は無関係でもない。つまり、精緻な代理変数ではないものの、他の変数と適切に組み合わせることによって1つの指標にはなりうる。また、後者については、国際会計士連盟が各国の国際基準アドプション状況を公表している。そこで示されている3分類をさらに細かく分類することで、インプリメンテーションの1尺度として用いる。 第3に、分析モデルの精緻化に取り組む。検証仮説において取り上げている「利害関係者の関与の程度」と「インプリメンテーションの有効性」および両者の関係にはさまざまな要因が影響を与えると考えられる。たとえば、経済の規模や資本市場の発展の程度は、その国における財務諸表監査の重要性に影響する。その結果、「利害関係者の関与の程度」と「インプリメンテーションの有効性」の両方に影響することが予想される。仮説を適切に検証するには、こうした要因を適切にコントロールすることが必要であり、これを検討する。
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Causes of Carryover |
令和3年度においては、国際基準設定主体のボードメンバーをはじめとして、国際基準設定プロセスに関心を有する各国の利害関係者へのインタビューを計画していた。しかしながら、コロナ禍の影響により、令和2年度に引き続き、インタビューのための海外出張ができなかった。したがって、予定していた旅費等を使用することができなかった。 この次年度使用額については、海外における研究成果報告(学会報告等)のための旅費として使用することを計画している。
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Research Products
(1 results)