2022 Fiscal Year Research-status Report
study on risk appetite on the basis of ROE
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20K02039
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
岡田 裕正 長崎大学, 経済学部, 教授 (40201983)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ROE(自己資本利益率) / リスクアペタイト / リスク許容比率 / 評価換算差額倍率 / 組替調整(利益のリサイクル) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「リスクアペタイト」を損失許容限度額と位置づけ、ROE(自己資本利益率)と関連付けた指標を開発することである。2022年度は次の点について研究を行った。 1 リスクアペタイトに基づくROE指標の研究:前年度から引き続き、小売業に属する企業のうち、この10年間継続して、2月決算または3月決算であり、かつ日本の会計基準を適用して個別財務諸表や連結財務諸表を作成している企業を対象に、売上高利益率、総資産回転率、レバレッジの3つとROEとの相関をみた。この結果、3月期決算の個別財務諸表を除いて売上高利益率との相関が高いことが分かった。次に、本研究で検討しているリスクアペタイトに関する指標「評価換算差額倍率」(評価換算差額等(連結財務諸表では「その他の包括利益累計額」以下連結を含む)の金額と当期純利益の割合)および「リスク許容比率」(評価換算差額等の金額と自己資本に割合)について、それぞれとROEとの相関関係を調べてみた。しかし、ROEとの間で高い相関を見出すことはできなかった。 2 利益のリサイクルに関する計算構造的考察:個別財務諸表における「評価・換算差額等」の「組替調整」(利益のリサイクル)」のための振替え(ある勘定の金額を別の勘定への移動)が会計手続的な可能性を、日本の企業会計基準委員会が公表している討議資料「財務会計概念フレームワーク」に基づいて検討した。この結果、本研究課題1年目に明らかにした「評価・換算差額等」が持つリスクシェアリング機能が、組替調整によって果たされることを示した。このことは、評価換算差額等の項目が当期純利益の金額を増減させることが会計手続き面からみても可能であること、すなわち会計実務で利用可能であることを意味している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度は、リスクアペタイトを考慮したROEについて、前年度同様、コロナによる移動制限があったため、専門家の意見を聞くことができなかった。そこで、「研究実績の概要」で述べた研究を実施した。 まず、本研究課題で開発を試みたリスク許容比率と評価換算差額倍率の妥当性の検討については、既述のように、両者とROEとの間に明確な関係を見出すことはできなかった。その原因として、評価・換算差額等を、その構成項目の性格を考慮せずに一括して捉えていたことが考えられる。評価・換算差額等を構成する項目には、時価の変動による評価損益(いわゆる含み損益)の性格を持つもの、ヘッジ手段とヘッジ対象との損益認識の期間的なずれを調整する性格を持つもの、為替レートの換算の差額の性格を持つものなどがある。これらが当期純利益の金額に影響を与えることの可能性について考慮できていなかった。また、ROEの計算で使用する「自己資本」が、株主資本と評価換算差額の合計額であることから、リスク許容比率では、分子にも分母にも評価換算差額が含まれていることも問題であろうと考えている。 他方で、評価・換算差額を当期の純利益への組替調整の会計処理については、日本の企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した討議資料に基づいて、計算構造的に成り立つことを説明することができた。このことは、ROEの計算に評価・換算差額等を利用することの会計処理(簿記処理)をすることが可能であることを意味している。つまりリスクアペタイトを考慮したROEを計算するための簿記的な基盤ができていることはいえることがわかったことは成果であると考えている。 本研究課題の目標の達成には至っていないが、会計処理的には、組替調整が可能であることを示すことができたので、このように評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、前年度の研究を踏まえて、個別財務諸表における評価・換算差額等の構成要素別に、リスク(損失が生じる可能性)に対するコントロールの可能性、すなわち当期純利益を増減させる効果の有無について検討する。現時点では、主な項目について具体的には次のように考えている。 ①「その他有価証券評価差額金」は、取得原価と時価との差額(含み損益)を可視化したものと考えれば、それを売却することによる益出によって当期純利益の金額を加減することは可能と考えられる。②「繰延ヘッジ損益」は、ヘッジ手段(主にデリバティブ)がヘッジ対象(現物資産)の損失をカバーする効果を会計的に対応させるための会計手法(ヘッジ会計)に由来するので、当期純利益と関連づけることはできない。③「土地再評価差額金」は、過去に時限立法に基づいて土地の含み益を明示したものであるが、再評価後の金額が取得原価となるため、売却しても当期純利益に影響しない。④「為替換算調整勘定」は、在外子会社に対する持分の減少の時などに生じるが、子会社の支配喪失時は株式売却損益となるので連結財務諸表上は当期純利益に影響すると思われるが、支配が継続するときは資本剰余金として扱われる。 このように効果があると考えられるものだけを取り出して「評価換算差額倍率」と「リスク許容比率」を計算し、ROEとの相関を見る必要がある。他方、日本では、収益認識会計基準が2021年度から全面適用となっているため、売上高の認識のタイミングや計上額に影響が出ている可能性があり、通時的なROEの計算自体が困難になる可能性がある。そこで、分析の対象は2020年度までに限定したいと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としてあげられる理由は、主に次の3点である。①前年度と同様、コロナの影響により、予定していた出張ができなかったこと。②コロナの影響で、オンライン講義が継続されたことにより大学に登学する学生が少なかったため、データ整理のためのバイト雇用ができず、短期で1名の雇用にとどまったこと。③2021年度から引き続き学部学生の厚生補導の責任者を務めたこと。 2023年度は、前年度までの研究成果と今年の実施計画に基づき、評価換算差額等の内訳項目の金額の変動を調べる必要がある。この研究を実施する上で必要な財務データベースの年間契約をするためには本科研だけでは不足するので、類似の研究をする本学部の他の教員と協力することにした。そこで、次年度に金額を繰り越し、共同で年間契約を締結することとした。
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