2021 Fiscal Year Research-status Report
偏見の顕在化にもとづく排外意識高揚メカニズムの検証
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20K02059
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永吉 希久子 東京大学, 社会科学研究所, 准教授 (50609782)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田辺 俊介 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (30451876)
瀧川 裕貴 東北大学, 文学研究科, 准教授 (60456340)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 偏見 / 潜在的偏見 / 顕在的偏見 / 規範 |
Outline of Annual Research Achievements |
韓国人に対する偏見について、IAT課題を用いた予備調査と本調査を実施し、偏見の顕在化のメカニズムの検証を行った。その結果、以下のことが明らかになった。 第一に、韓国人への潜在的偏見(IAT課題から得られたDスコア)の程度は、予備調査と本調査でほぼ同じであり、頑健な結果が得られた。またその偏見の程度は相対的に高く、日本社会に韓国人に対する比較的強い潜在的偏見が存在することが示された。潜在的偏見は高齢層ほど、インターネットで情報を得ている人ほど高い傾向にあったが、その関連は弱く、社会経済的地位との関連は見られなかった。ここから、社会経済的地位に関わらず、韓国人に対する偏見は広がっていると考えられる。 第二に、韓国人に対する顕在的偏見も高い程度で見られた。潜在的偏見との間には正の相関があるものの、相関は0.2程度であり、強いとはいえない。また、政治的関心の高い層、高齢層では特に潜在的偏見と顕在的偏見の関連は弱く、こうした層では平均的に韓国人への顕在的偏見が強かった。この結果は、「社会規範によって偏見を抑制する」という事象は日本の韓国人に対する偏見においては生じておらず、むしろ政治的関心の高い層、年齢の高い層では、他者から意見を聞かれた場合の「デフォルトの態度」として否定的な態度を示している可能性が示唆された。 第三に、顕在的偏見に関する質問への回答時間と潜在的偏見の関連について検証を行い、長時間考えた場合に、潜在的偏見が抑制される可能性が示された。この点については、年齢と回答時間の関連なども考慮に入れて、さらに分析を進める予定である。 本研究課題では「偏見が抑制されないのはどういう場合か」を問いとしていたが、ここまでの知見は「偏見がないにもかかわらず、否定的な回答を行う」という「偏見の過剰顕在化」ともいえる事象が生じていることを示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
二度の調査を実施し、潜在的偏見に関して頑健な結果が得られることが確認できている。ただし、本研究課題は「偏見が抑制されないのはどういう場合か」を問いとしていたが、ここまでの知見はこうした問いの妥当性自体を問い直すものであった。そこで、来年度は問いを「なぜ潜在的には必ずしも強い偏見を持っていないにもかかわらず、顕在的には否定的な態度を示してしまうのか」を問いとして設定し、こうした事象が生じる要因を検討する。
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Strategy for Future Research Activity |
前述のように、二回の研究結果は本研究課題の問いの問い直しを迫るものであった。そこで、新たな問いを設定し、検証を行う。現在のところ、「周囲の人の韓国人に対する態度が否定的であると予測し、それに合わせた回答をした結果、潜在的偏見が弱いにも関わらず顕在的な態度を問われた場合には否定的な回答をする」という仮説を立て、これを検証するためのシナリオ実験を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度に調査が実施できなかったため、調査の一部を翌年に繰り越した。2022年に潜在的偏見の行動への影響を検証する実験と、周囲の態度の予測が与える影響についてのシナリオ実験の二つを実施する予定である。
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