2020 Fiscal Year Research-status Report
Vulnerability of the home care workers under the marketization of care for the elderly and resolution of it
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20K02071
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
山根 純佳 実践女子大学, 人間社会学部, 准教授 (80581636)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 市場化 / 訪問介護 / 介護保険制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は介護労働の市場化をめぐる研究動向を整理し、福祉国家による市場化とケア労働者の脆弱化をテーマに、Gender equality, paid and unpaid care and domestic work: Disadvantages of state-supported marketization of care and domestic work(The Japanese Political Economy, 47)を執筆した。在宅ケア家事サービスについては、ヨーロッパでもサービス給付から現金給付政策が主流になりつつあり、給付や税額控除をとおして高階層世帯による購買を促進する一方で、ケア労働者の労働を不安定化させている。日本の介護保険制度も同様に、個人に対する現金給付の流れに位置づけられ、サービスに対する介護報酬ではホームヘルパーが費やしている準備、移動、待機時間の労働分がカバーされないため、最低賃金を下回る給与水準になっている。 2020年度は勤務校の長期研修休暇でイギリスオックスフォード大学社会学研究科に所属予定であったが、コロナ感染拡大のため渡英をあきらめ、2020年11月から3月までお茶の水女子大学ジェンダー研究所に研究協力員として所属した。2021年3月11日の研究報告会では「ケア・家事労働の市場化はジェンダー平等を実現するか」というテーマで報告をおこなった。ケアや介護において同じケアのニーズを持ちながらも収入によって利用できるサービスが異なるため、世帯収入の格差によるケアや家事の質や量に変化が起こっている現状をふまえ、日本においては公的サービスの縮小と「家族化」「地域化」「市場化」のいずれもが利用者間格差を生み出していることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)理論仮説の精査 2020年度は「移住労働をめぐる政府の規制のあり方と介護労働者の脆弱性の関連」について上述の論文において明らかにした。労働者をエンパワーする資源として産業別労働組合や労働協約の機能について分析した。フランスにおける家庭雇用は直接雇用が主流でありつつも、戦後から個人家庭雇用主の非営利団体が発足し、また労働者側の家事労働者組合が「一般労働者と同等の処遇」を求めて使用者との労働協約を締結した歴史がある(伊藤2020)。家庭における直接雇用という形式をとりながらも労働者の交渉力を保証する仕組みがあったといえる。一方で対人サービスセクターの興隆により営利企業の参入も増加し、「通い」であっても複数の雇用主に短時間ずつ雇用される「雇用の断片化」が起こり、労災や賃金の保証など労働者保護が困難になるという点は、日本の介護保険制度の訪問介護従事者にも同様のことがいえる。 2)質問紙調査にむけた予備調査: アンケート調査実施に向けホームヘルパーが実施したアンケート調査(683ケース)の個票データを用いた予備的な分析をおこなった。移動・待機時間の実態と支払いの有無、ハラスメントの経験頻度、研修について法人格ごとの比較をおこなった。厚労省が労働時間として賃金支払いの対象とするよう通達をだしている「移動時間」の支払いについて「支払われている」の回答は、社会福祉法人>株式会社>NPO法人の順で多く、非営利でも訪問介護以外の事業から収益のある社会福祉法人では労働者への分配が多い状況がうかがわれる。一方コロナ感染予防のための研修については、「あったので参加した」との回答は、社会福祉法人>NPO法人>株式会社の順で多く、利用者からのセクハラ、モラハラの経験は、株式会社では約半数、社会福祉法人では35%と株式会社で高い。営利企業での顧客主義化の傾向をみてとることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は在宅介護労働者への質問紙調査の実施・分析を予定していたが、報道等で指摘されているように、コロナ感染拡大により、介護事業所、介護従事者は感染拡大防止策等の日常業務の増加、また感染を忌避する利用者からの利用控えにより厳しい運営・経営状況にある。このような状況での質問紙調査は過度な負担となり、また回収率も著しく下がると予想され費用対効果が下がる。よって質問紙調査は次年度以降に延期することが望ましいと考える。また、コロナ禍で訪問事業所や従事者が直面している課題について明らかにすることが求められている。以上の理由から、2021年度はインタビュー調査の実施に切り替え、コロナ禍における「顧客主義」の影響について、事業主また従事者を対象にオンラインでのインタビュー調査を実施する。営利・非営利の比較を実施するために、社会福祉法人、株式会社、NPO法人の正規(1名)、非正規(3名)の従事者12名に実施する。質問項目はコロナ感染拡大に伴う「仕事の負担について」「顧客との関係の変化」「利用者の心身の状況の変化」「労働時間や休暇の変化」等である。調査の費用についてはオンライン調査であることから移動等にも費用は必要としない。予算にはテープおこしと謝礼のみ計上する。
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Causes of Carryover |
当初、新型コロナウイルスの感染の収束を前提に学会報告等の交通費のための前倒し請求をおこなった。しかし結果として下半期にも新型コロナウイルス感染が収まらず、学会もすべてオンラインになっため、所要額と支出額のあいだに差額が生じた。差額分については、2021年度の旅費や学会大会参加費に充当する。
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