2020 Fiscal Year Research-status Report
A Sociological Study of Social Network Formation Based on Trust
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20K02072
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
内藤 準 成蹊大学, 文学部, 准教授 (00571241)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 社会的ネットワーク / ソーシャルサポート / 一般的信頼 / 特定化信頼 / 自由 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は参加している全国調査プロジェクトのウェブ調査データを用いて,2本の論文を執筆した.これらは筆者の発案した調査項目を用いたものであり,以下の事柄を明らかにした.「信頼とサポートネットワーク形成:親族・非親族ネットワーク人数の規定要因の基礎的分析」では,「一般的信頼」のほか「特定化信頼」と対人関係ネットワークの形成に着目した.ネットワークサイズの測定において,一般に用いられている質問項目に対し,親族・非親族ネットワークを区別できる工夫を付加した.それらを用いた分析によって,①一般的信頼と特定化信頼はともに,サポートネットワーク(親族・非親族ネットワークの両者)と正の関連があること,②経済的な資源とサポートネットワークとの正の関連は非親族ネットワークに限ること,③親族ネットワークに対しては婚姻や同居人数等が強い正の関連をもつこと,④経済的資源とサポートネットワークとの正の関連には一般的信頼との正の交互作用が示唆されること,などの重要な知見を明らかにした.「選択の自由と資源分配・ネットワーク:SSPW2020データにおける主観的自由の基礎的分析」では,筆者が提案した「主観的自由」項目を用いた分析をおこない,①有利な社会経済的地位が人びとに「自由だ」と報告できる状況(高い主観的自由)をもたらすか,②主観的自由の高さは人びとの行為の幅を広げるか,という両面について検討した.この主観的自由項目は,自律的選択,消極的自由,選択のための資源,という3項目からなる合成尺度として使用できる.そのうえで,①収入や健康などのSESが主観的に自由だといえる状況をもたらすこと,ネットワーク人数(親族・非親族)も正の関連をもつこと,さらに,②人びとの高い主観的自由は,幅広い行為の選択と正の関連をもつこと,この正の関連はSESをコントロールしても残ること,という重要な知見を明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を極めて大きく受けることとなった.本研究課題のテーマは「社会関係の形成」であり,人の流れ,人の動き,対人接触が非常にイレギュラーなものとなる緊急事態宣言や外出自粛等の状況下で,計画通りの調査をおこなう見込みが得られないためである.そのため,調査時期および調査方法のある程度の変更も視野に入れつつ,調査準備を慎重に進めていく必要がある.また本研究課題では社会調査の実施を計画しているため,その予算は来たるべき実査のために可能な限り集中する必要がある. そこで,2020年度は本研究課題の研究費からは学会参加費用を支出するにとどめ,今後の調査の実施のため可能な限り研究費を温存するという判断をおこなった. そのため,調査準備のための研究内容としては,予算がかからない既存のデータの2次分析および文献の講読等の作業をおこなった.社会ネットワークに関する古典的研究の読み直しをおこなったほか,サポートネットワークの形成と効果に関する研究(とくにMario Luis Small の著作)の検討をおこない,調査項目ならびに設計のうえで重要な示唆を得た.その成果の上で,2021年度は所属する研究機関において簡単なパネル調査を進行中である. 以上より,研究の進捗としてはやや遅れているものの,可能な範囲内では妥当な成果を得ていえる.
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度も依然として世界的な新型コロナウイルスの感染が続き,日本国内においても緊急事態が宣言されている.当初計画していた通りの調査実施は難しいと考えざるを得ない.そこで,①調査時期の見なおし,②オンライン調査・オンライン実験などの代替的な研究手法の実施,という両面からの検討をおこなう. 本研究では,5年間で2波のパネル調査を計画してきた.当初計画では令和3年度と5年度(2021年度と2023年度)に東京都内の自治体において実査をおこなう予定であったが,コロナ禍の現状において計画通りの実施は難しい.そのため,調査時期を1年程度後ろ倒しすることを検討する.全国調査は難しいため,すでに2度の調査実績のある東京都八王子市を継続的な調査対象候補地とし,計画サンプルサイズは2000ケースの郵送調査を計画する.ネットワークサイズやサポートの有無,「一般的信頼」と「特定化信頼」,「利他性 」や「平等主義」などの社会的動機や,「条件付き協力」などの戦略的態度,社会経済的地位(SES)など,本研究全体の説明変数となる項目を中心に充実したデータを得ることを試みる. 他方,オンライン実験・オンライン調査は,調査手法の進歩と普及が著しく,今般のコロナ禍においても比較的実施が容易であるという大きなメリットがある.また,モニターに限られるとしても一地域に限られないサンプルが得られ,必要な属性について割り付けができるといった利点もあるため,本研究課題への導入について検討する価値がある.オンライン調査ならではの方法的工夫が必要になるため,上記のパネル調査の再検討と同時進行で,オンライン調査・実験について検討する.その予行的な作業として,2021年度(令和3年度)に所属研究機関の中において,簡単なオンラインパネル調査を実施中である.このデータについても,準備ができ次第分析し,研究成果として報告する.
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Causes of Carryover |
すでに述べたとおり,2020年度は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響を極めて大きく受けることとなった.本研究課題のテーマは「社会関係の形成」であるところ,新型コロナ禍に緊急事態宣言や外出自粛の条件下では,対人接触機会や人の流れといったネットワーク形成の条件が非常にイレギュラーなものにならざるを得ない.そのため,計画通りの調査をおこなう見込みが得られず,調査時期および調査方法の変更も視野に入れて,調査準備を慎重に進めていく必要がある.そして,本研究課題では社会調査をおこなうという性質上,予算の使用を実査のために可能な限り集中する必要がある. そこで,2020年度は本研究課題の研究費からはわずかな支出にとどめ,調査のために可能な限り研究費を温存する判断をおこなった.次年度使用額が生じたのは以上の理由によるものである. 今後の使用計画としては,当初計画通りの調査実施はコロナ禍の影響で困難であるため,調査時期を1年程度後ろ倒しすることを検討している.現在のところ,研究費の多くはこの調査のために使用する予定である.他方,オンライン実験・調査は,コロナ禍においても比較的実施が容易であるため,上記のパネル調査の再検討と同時進行で,オンライン調査・実験の導入を検討する.オンライン調査・実験の実施にあたっては,調査会社への依頼が必要となる.そのために研究費を支出する予定である.
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Research Products
(2 results)