2020 Fiscal Year Research-status Report
Occupational Disease Issues and Labor Movements in Japan and the United States: A Comparative Study
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20K02074
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
鈴木 玲 法政大学, 大原社会問題研究所, 教授 (20318611)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 労働運動 / 労災職業病 / 公害問題 / 環境問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、北米(主にアメリカ)と日本の労働組合の職場環境と職業病問題への対応や労働者の健康を守る運動について、入手できる範囲の文献や二次資料および一次資料に基づいて検討し、論文にまとめた。 アメリカ(一部カナダを含む)の労働組合の研究では、先行研究に基づき「労働者階級の環境主義」(労働環境主義)の概念を整理するとともに、労働者・労働組合の職場環境や職業病への取り組みが労働運動内での広がりにくくする要因として、「有害物質、健康被害についての情報の労使間の不均衡」と「労働者やローカル組合の職場環境問題へのアンビバレントな態度」を挙げた。「アンビバレントな態度」とは、危険物質をあつかう労働者が健康被害の可能性を認識しつつも、雇用安定や賃金・生活水準の維持のために、長期的に健康被害を及ぼす可能性がある職場環境を受け入れる傾向にあることを指す。また、OCAW(石油、化学、原子力国際労働組合)の職業病への取り組みを事例として取り上げ、労働組合が科学者や専門家の協力を得て有害物質、健康被害の情報の不均衡にどのように対応しているのかについて検討した。 日本の労働組合の研究では、企業別組合や組合内の少数派活動家が、経営者の組合攻撃、企業別組合の指導部の無関心、あるいは経営者の非協力的態度などの困難にかかわらず、職場で扱う有害物質の長期的ばく露から罹患する職業病(とくに職業がん)問題に労災申請や裁判闘争などを通じて取り組んだ3つの事例(化学産業の2つの企業内組合と鉄鋼産業の1つの企業の組合活動家)を二次資料や組合機関誌の分析を通じて検討した。これらの事例では、それぞれの運動の結果、労働基準監督署や労働基準局が労働者が罹患したがんの一部を職業病として認定したものの、企業側が非協力的であったため、労働者や遺族が職業病に対する労災保険の補償を得ることが困難であったことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は「日本とアメリカの労働運動が労働者を有害物質と職業病から守るためにどのような取り組みや対応をしたのか比較分析する」ことを目的とする。2020年度中に、日本の化学産業や鉄鋼産業の労働組合や労働者、およびアメリカの化学産業や鉱業の労働組合や労働者が有害物質、職業病へどのように取り組み、取り組む際にどのような困難に直面したのか、および労働組合が賃金や雇用問題を超えて(職場環境も含む)公害・環境問題に取り組む条件についての先行研究の知見を論文という形でまとめることができた。 これらの論文は「日本の労働組合の職業病・職業がん問題への取り組み―3つの職業病闘争の事例に基づいた考察」、「労働運動の労働環境への取り組みとその限界―労働環境主義を志向した北米の労働組合の事例に基づいて」として刊行された。これらの論文は、『労働者と公害・環境問題』(法政大学大原社会問題研究所・鈴木玲編著、法政大学出版局、2021年、第3章、第5章)に所収されている。 2020年度の研究は、文献や二次資料、大原社会問題研究所が所蔵する一次資料を用いて行われた。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、日米の労働組合のアーカイブズや労働災害・職業病に取り組む運動団体を訪問して資料を収集することや、関係者への聞き取りを行うことができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、職場で使用(あるいは発生)する有害物質のうち、主に化学物質の長期的ばく露による職業病に労働者や労働組合がどのように対応してきたのかについて検討してきた。今後の研究では、炭鉱労働者を中心とした珪肺やじん肺など、職場で発生する粉塵への長期ばく露による肺の疾患を伴う職業病の問題に焦点を当てる予定である。じん肺や珪肺問題は、工業化に伴い発生した古くからある職業病であるが、現在も労働者や退職者の健康に影響を及ぼしている職業病である。 研究は、日米の炭鉱労組の組合新聞や資料、労働者や労働組合に協力した医師や専門家に聞き取りを行う予定である。米国の炭鉱組合のアーカイブズ調査は現状では難しいかもしれないが、日本国内の石炭じん肺の歴史と現状について文献および聞き取り調査を行う予定である。また、アメリカについては、主に二次資料に基づいた調査を計画している。
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Causes of Carryover |
2020年度は、新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大で、海外出張はもとより国内出張もできなかった。そのため、計上していた旅費を執行することができなかった。21年度は、国内旅費を使用して国内の資料・聞き取り調査を行う予定である。年度後半に、海外調査が可能になった場合は、アメリカの労働組合アーカイブズ調査を行う予定である。
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Research Products
(1 results)