2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K02075
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
佐藤 恵 法政大学, キャリアデザイン学部, 教授 (90365057)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
水津 嘉克 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (40313283)
伊藤 智樹 富山大学, 学術研究部人文科学系, 教授 (80312924)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 支援 / 自己 / 物語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、福祉・医療に関するいくつかのトピックを設定し、支援が行われている現場に対して、主に質的調査を用いながら自己物語論的分析を行う。事例研究を通して、自己物語形成の有効性、発生条件、および限界をより精密に検討すると同時に、物語の聞き手としてピア(仲間)や専門職、あるいはそのようなカテゴリーには含まれないが彼らの日々の生活と密接に関わる人々(地域住民、ボランティア等)の特徴に関する分析を進める。 本年度は、研究協力者たちとの研究会において、各自の研究テーマに関する報告と意見交換を行い、本研究の具体的な調査対象を絞り込んだ。その結果、病いや障害をもつ人の経験およびピア・サポートに着眼する研究と、本人を支援者の経験および直面する困難に着眼する研究とを交差させることで、本人と支援者の双方に視野を広げつつ、病いや障害をもつ人の自己に関する物語構成および維持の条件を考察する準備を行った。他方で、分野横断的な研究発表を行った結果、現代社会における支援を考えるにあたって、自己物語論的研究がもつ重要性が、医療など他分野もしくは支援の現場について今後一定の重要な役割を果たすことがわかった。 一方で、自己物語をめぐる分析枠組みの検討も引き続き試みている。物語論的なパースペクティヴは、海外の業績を翻訳するかたちで国内に持ちこまれ、社会学の領域に定着していく過程のなかで、自己物語とは何か、物語論的な研究とは何をさすのかに関して曖昧さを増してきてしまったという歴史をもつ。支援に関する実践的な研究を進めていくからこそ、理論的な検討は引き続き重要な側面であり、本研究内において常に共有されているテーマとなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
具体的な研究テーマとして、強皮症患者のピア・サポート、東京都多摩地域における精神障害者のピア・サポートの展開、更生保護施設のピア・スタッフに関する事例研究、在宅療養難病患者の介助者が直面する情動静止困難、NPO 法人による任意後見の事例研究、小児科医のSuffering と支援の可能性について今後研究を進め、とりまとめる方針を確認できた(部分的な変更はありうる)。 また、きわめて個人的な経験であると捉えられがちである「死別」経験をめぐる困難を、どのような形で自己物語的研究の対象としていくのか、そして支援の枠組みのなかに位置づけることが可能なのかという問いに関して、引き続き検討を行っている。 被害者支援のトピックにおいては、「サバイバー」概念を補助線として検討を進めている。R.J.リフトンは、「生存者とは、肉体的にせよ精神的にせよ、なんらかの形で死と接触し、現在なお生きつづけている者」と定義した上で、「われわれはすべて広島を生きのびた者であ」るとして、死との接触体験者のみならず、そうした体験の後を生きる人々をすべて広義の「生存者(サバイバー)」と把握した。しかし、被災障害者の事例から分かることは、確かに地震という自然災害については被災市民すべてが被害者とも言えるが、被災市民の中には、「震災弱者」への二次被害という点ではむしろ加害者となる市民も存在する。死との接触体験の後を生きる人々すべてを「サバイバー」と広義に把握すると、二次被害における加害者を免罪することになりかねない。ただし、広義の「サバイバー」概念は「ひとごと意識」の回避をもたらす場合もあり、意味がない概念というわけではない。 ピア・サポートに関する研究を推進しつつ、自己物語構成の聞き手である、または潜在的にそれになりうる重要な他者としての支援者の経験および困難にも視野を広げたうえで本研究の射程を具体的に定めた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究が明らかにしようとする点は、次の二点である。第一に、支援において自己物語形成の有効性や、発生条件、および限界を考えていくために役立つ事例を示し、それがどのような意味において有効、あるいは限界があるのかを明らかにすることである。自己の構成に関する何らかの生き難さを抱える場合、経験を秩序だった言語によって記述(物語化)することが当事者にとって大いに救いとなる場合が少なくないが、それがどのような意味で救いとなっているのか(あるいは、なっていないのか)を分析することは、社会学が取り組むべき課題である。 本研究が明らかにする第二の点は、自己物語形成に関与する聴き手としての他者を事例に応じて特徴づけることである。これまでの研究の進捗状況においては、ピア・サポート、セルフヘルプ・グループの重要性が明らかになってきているが、本研究では、医師や看護師、ソーシャル・ワーカー、あるいはケアワーカーなど、さらには一般市民にも射程を広げながら、それぞれの聴き手としての特性を浮かび上がらせる。 以上の具体的なねらいをよりよく達成するには、異なる領域や事例を横断した比較が有効と考えられる。フィールドワーク、インタヴューの他、事例によってはドキュメント資料収集も組み合わせながらデータを収集し、それらを比較分析していく。 その上で、本年度は調査を進め、データ分析を通じて、本研究が従前より行ってきたピア・サポート研究、および自己物語論の彫琢を進める。また、既存の物語論的な分析においては、聞き手の存在が分析の過程で軽んじられてきたことを踏まえ、物語の顕在的ないし潜在的な聞き手である支援者の経験にアプローチするのに有効な概念または理論枠組み・分析枠組みについても検討を進める。
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Causes of Carryover |
2020年度、2021年度においては、コロナ禍のため、フィールドワーク等の調査研究の実施や予算執行の上で大きな困難が伴った。2022年度は、コロナウィルスの影響が継続する可能性もあるが、2021年度までの教訓をふまえながら、当初計画に沿った支出を目指していく。
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Research Products
(1 results)