2020 Fiscal Year Research-status Report
Mechanism of Social Capital for Disaster Resilience
Project/Area Number |
20K02111
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
三隅 一百 九州大学, 比較社会文化研究院, 教授 (80190627)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 災害 / 社会関係資本 / レジリエンス / コモンズ / コミュニティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、安全や防災力のような地域コモンズ管理の観点から災害レジリエンスを捉え、コモンズ管理のために社会関係資本を持続的に機能させる仕組みを探求することである。今年度は、熊本地震やいくつかの水害被災地における調査をふまえて、フリーライダー(コモンズ管理に貢献せずにその便益だけを享受すること)が地域コモンズの供給に資する側面に着眼した。 フリーライダーのこの逆説的な仕組みを理論的に解明するために、J.S.コールマンの相互行為システムの数理モデルを再考した。このモデルは、利害関心に応じて資源(貢献)を割り振る行動原理が、コモンズ管理からみて合理性をもつことを示唆する。つまり、複数のコモンズを分担したり分業したりして全体としてうまく管理するシステムである。そこで、地域コモンズ管理のための社会システムを「コミュニティ」として捉え直し、コミュニティの分担・分業モジュールという概念を考案して、このシステムの理論化を進めた。 調査は、今年度はコロナ禍で聞き取り調査が難しく、資料収集を中心に行った。それにより、上述の理論的観点が、防災から復興までの長い時間幅で地域社会の災害レジリエンスを捉える枠組みになりうることを確認した。また、調査対象として地震だけでなく水害も視野に入れたことにより、ハザードの種類および地域によって、焦点となる地域コモンズやそこでの課題が異なることがわかった。 さらに、防災教育ツールとして流布している「クロスロード」を活用して、現場の課題解決に本研究の成果を実践的に生かす手法の開発を進めている。これは、本研究の成果を踏まえて理論的に想定されるコモンズ問題をクロスロードに落とし込み、質問紙調査の設問とも関係づけることで、現地の人たちが地域の現状にそくして持続的な社会関係資本の仕組みを考え、つくることを、支援する手法である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍もあり、熊本で地区の状況を詳細に聞き取るためのインタビュー調査を十分に実施できなかった。また、コモンズ管理と社会関係資本との関係について、国内外の研究集会に参加して理論枠組みや新たなシミュレーション等の方法論を検討する予定だったが、その多くが中止・延期となり、十分な機会をつくることができなかった。 しかしながら、調査については、いくつかの水害被災地で資料調査を重ねることができたので、地震災害とともに水害を含めて、より一般的な地域・災害比較の観点から研究を展開することができた。理論研究の面でも、数理モデルを用いた先行研究を見直すことで、「コミュニティ」概念の再構成を軸にした理論枠組みの整備を進めることができた。また、熊本では「くまもとクロスロード研究会」の活動に参加しながら調査を進めているが、その参加経験にもとづいて「クロスロード」を活用した研究の社会還元の手法の開発を進めることができた。 以上のように、コロナ禍の諸制約のもとでアプローチの仕方を軌道修正しながら、おおむね順調に研究を進めることができている。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度に実施予定の本調査は、当初の計画では熊本市内の地区比較を考えていたが、地震災害とともに水害を含めたより一般的な地域・災害比較の観点から研究を進める意義を考慮し、熊本市とともに、2019年8月豪雨災害の被災地である武雄市を対象地に加える方向で、準備を進めている。ただし、予算および現地の意向との調整によっては、どちらか一方を「クロスロード」を軸とした研究成果の実践的な展開のフィールドとする可能性がある。また、本調査は郵送調査を計画していたが、コロナ禍の状況次第でウェッブ調査に切り替えるべく、調査会社との予備調整を始めている。 理論的には、コモンズ管理に資する社会関係資本に関わるものとして、地域信頼のパラドクスに着眼し、理論枠組みを発展させたい。これは、地域社会のリーダーシップやまとまりがしっかりしていることで、逆にフリーライダーが促進されるという、本研究のオリジナルな着眼である。この観点を、コミュニティの分担・分業モジュールの概念枠組みに融合させて、社会関係資本の温存の仕組みの一環として捉え直すことを考えていく。
|
Research Products
(4 results)
-
-
-
-
[Book] ジレンマの社会学2020
Author(s)
三隅一人・高野和良(編著)
Total Pages
277
Publisher
ミネルヴァ書房
ISBN
978-4-623-08977-2