2022 Fiscal Year Research-status Report
A Study of Impact of Realistic Turn on Sociological Theory: A Reconsideration from the viewpoint of "Ontology / Epistemology"
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20K02129
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Research Institution | Ritsumeikan Asia Pacific University |
Principal Investigator |
清家 久美 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 教授 (00331108)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 新実在論 / ドレイファス=テイラー / 接触説/媒体説 / M. ガブリエル / I. カント |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、社会学ないし社会学の方法論を〈存在論/認識論〉の視点から整理することにより、新たな思想潮流としての実在論的転回が社会学ないしは社会学の方法論にどのような影響を与えうるかを検討することである。 2022年度も、実在論的転回の一つである新実在論の中心的な論者であるM.ガブリエルの思想に焦点を当てることによって、新実在論はわれわれに、ないしはわれわれの社会に何を提案しようとしているのかという問題意識のもと、先行研究に見る哲学史における実在論と観念論の対立という伝統的な問題系の反復として現在の実在論的転回を捉えるということを試みた。しかしながらこの実在論/観念論という対立軸は、単なる哲学史上の反復に止まらない含意を孕んでお り、それを引き出すためにドレイファス=テイラーの提案する接触説/媒介説の視点の援用を試みた。また哲学の研究領域だけではなく、現代の社会科学の知のあり方を検討することにより実在論的転回、特にガブリエルの新実在論が何をしようとしているかを明らかにすることを目的とし、研究を進めた。 接触説/媒介説という枠組みを通して実在論的転回の動きを眺めてみると、近代哲学史において接触説を基本とするシェリングが媒介説を主張するカント哲学を超克しようとしたことを、ガブリエルは現代において、媒介説を基本とした社会科学の知のあり方を接触説のシェリングに依拠して批判し乗り越えようとしていると言えるのではないだろうか。つまり新実在論は、現代の知において支配的な媒介説に依拠した対象によって構築された世界観として考えるのではなく、接触説に基づき直接触れることができるものとして対象を捉え得る世界観を提案していると結論づけられる。 2022年度は以上の研究を進め、「〈接触説/媒介説〉からみる新実在論についての一考察 」というタイトルで査読論文として『社会システム研究』に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、新たな思想潮流としての実在論的転回が社会学ないしは社会学の方法論にどのような影響を与えうるかを検討することとして研究を進めているが、2022年度も哲学史における実在論と観念論の対立という伝統的な問題系の反復として現在の実在論的転回を捉えるということを試みた。ドレイファス=テイラーの接触説/媒介説という枠組みを通して実在論的転回の動きを眺めてみると、近代哲学史において接触説を基本とするシェリングが媒介説を主張するカント哲学を超克しようとしたことを、ガブリエルは現代において、媒介説を基本とした社会科学の知のあり方、あるいは社会学における構築主義的な考え方を接触説のシェリングに依拠して批判し乗り越えようとしていると言える。彼が提案した意義諸領野について、それが社会学の構築主義を乗り越えた可能性を提示していると考えられる。 さらに、フレーゲにおける「意義と意味について」を解釈し、ガブリエルの「意義諸領野」における存在論の理解を進めた。まずは彼にとって存在あるいは存在の意味とは、意義諸領野の性質である。認識に関わるもので人間に固有のあり方、とりわけ知や知覚に通じた知は存在するもののうちに根付いており、したがって新実在論においては存在するもののすべては意義諸領野の性質であるということが確認された。 以上を批判的検討した上で2023年度は次の研究につながっていく。それは、1.カントの主観の前提性批判(認識論)を確認する、2.フレーゲの「意義」と「意味」の区別を明らかにし、「意義領野」の厳密な把握をする。3.(パデュウと)ジジェクの「全体は存在しない」との差異を明らかにする。4.ドレイファス=テイラーの媒体/接触の図式の援用可能性の追求をする。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度の研究において、①哲学史における実在論と観念論の対立という伝統的な問題系の反復として現在の実在論的転回を捉えるということを試みつつ、ドレイファス=テイラーの接触説/媒介説という枠組みを通して実在論的転回の動きを眺めてみると、近代哲学史において接触説を基本とするシェリングが媒介説を主張するカント哲学を超克しようとしたことを、ガブリエルは現代において、媒介説を基本とした社会科学の知のあり方、あるいは社会学における構築主義的な考え方を接触説のシェリングに依拠して批判し乗り越えようとしているということを見出した。②さらに意義諸領野の存在論を追求することにより、構築主義に代替する方法論の模索をしてきた。また、③それに関連してフレーゲにおける「意義と意味について」を解釈し、それによりガブリエルの「意義諸領野」における存在論の理解を進めてきた。 2023年度は、以上の3点をさらに深化させていく予定である。 1.カントの主観の前提性批判(認識論):シェリングの「無底」の視点に依拠し(存在論)、カントの読み直しとシェリングの原典からそれを進める.2.フレーゲの「意義」と「意味」の区別を明らかにする:シェリングの主張に依拠し、未理解部分の理解深化や、「意義領野」の厳密な把握をする。3.(パデュウと)ジジェクの「全体は存在しない」との差異を明らかにし、さらにジジェクのシェリング理解との差異も同様に明らかにする。(ジジェクのシェリング論『仮想化しきれない残余』の把握)、4.ドレイファス=テイラーの媒体/接触の図式の援用可能性の追求をする。
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Causes of Carryover |
コロナの影響により学会等のオンライン開催となったために、旅費、宿泊費等としての支出の減額が最も大きな理由となる。また、同理由により新潟への調査も難しく、旅費、宿泊費としての使用がなかったことも理由としては大きい。 2023年度は、学会も一部対面に戻っているために、旅費、宿泊費としての支出が必要となる。また今年度は調査が可能となるので、その実施を予定している。それにより旅費、宿泊費としての支出が必要となる。
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