2021 Fiscal Year Research-status Report
『ポストフクイチ社会』に向けた原発立地県における地域公共圏構築の可能性と課題
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20K02134
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
渡邊 登 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (50250395)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 公共圏 / 再生可能エネルギー / 持続可能なコミュニティ / 脱原発 |
Outline of Annual Research Achievements |
①本研究は原発立地地域における脱原発へのソフトランディングの可能性を原発再稼働同意(不同意)主体である新潟県と具体的可能態としての柏崎市における多様なステークホルダーへの詳細な聴き取り調査と住民への世論調査を通じて探ることを目的としている。2021年度は予定していた世論調査は2022年度に延期することととして、聴き取り調査に絞ることとした(理由は後述)。 聴き取り調査は、推進派・反対派・中間派の討論の場として設定された「柏崎刈羽原子力発電所の透明性を確保する地域の会」のメンバーを2014年以降、その対象としてきたが、そのなかでも「地域の会」で10年間議長を務めたA氏と、同会メンバーを通じて知遇を得た同地域の推進派(であったが原発震災以降、柏崎地域の将来への不安を抱え、それに対して地域の将来像の提案をしてきている)重鎮B氏に焦点を絞って、接触をとり続け、聴き取りを行った。その過程でB氏から、柏崎市の将来像を考えるプラットフォーム形成への助言を求められ、脱炭素とSDGsをキーワードとした議論の場であるとともに実践の場としてのプラットフォームの立ち上げに参加し、観察を行っている(A氏もメンバー)。 ここでテーマとされる地域社会の将来像の議論では原発との関係は避けて通れず、本研究の課題を明らかにする上で非常に貴重な場となっている。 ②2014年以降継続して行っている「おらってにいがた市民エネルギー協議会」への参与観察に基づいて、その詳細なモノグラフを出版した(渡邊登『再生可能エネルギーによる持続可能なコミュニティへの市民の挑戦』(ブックレット新潟大学77)新潟日報事業社、2022年3月、70頁)。本書では再エネの導入を地域外の資本による(外来型・誘致型開発)ものでなく、あくまでも地域主体による展開を可能にするための条件また課題を市民主体の再エネ事業への参与観察で明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度に予定していた柏崎市民対象の世論調査を以下の理由から2022年度の実施予定に変更したため。 研究計画当初は、2016年の県知事選挙で当選した米山隆氏が公約で「福島原発事故およびその影響と課題に関する 3 つの検証(事故原因検証,事故の健康と生活への影響の検証,安全な避難方法の検証)がなされない限り原発再稼働の議論は始められない」としており、その検証には3-4年かかるとされていたために検証結果が出されると想定される2021年度に、それを踏まえた世論の動向の確認を意図していた。しかし、米山氏の方針を継承するとした現知事花角氏と検証委員会との検証の総括における委員会の位置づけをめぐる混乱などで委員会が予定通りに開催されず、総括的検証結果が出されていないためにそれを待つこととした(また、2020年10月に7号機が原子力規制委員会の全審査に合格し、2021年には再稼働「実現」が見えていたが、その後、安全対策工事未完了カ所が次々と発覚し、更にテロなどを防ぐ核物質防護体制の不備も相次いでおり、再稼働は全くの白紙状態となっている) ただし、「研究実績の概要」で説明したように、新たなプラットフォームに参加可能となったことは本研究の主目的である原発立地地域における原発依存から脱原発依存さらに脱原発へのソフトランディングへの諸条件を探る上で重要な場へのアクセスが確保されたこととなり、今年度の研究に有利な条件が整ったと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
①「研究実績の概要」で説明した新たなプラットフォームへの参加観察を進め、原発立地地域の脱原発へのソフトランディングへのプロセス選択の可能性(あるいは不可能性)とそのための諸条件を探る。 ②「『ポストフクイチ社会』に向けた原発立地県における地域公共圏構築についての研究」で明らかとなった、原発への「反」「脱」「維持」軸(調査項目では原発問題関連項目及び投票行動によって構成)と、コミュニティの持続的「発展・再生」軸(生活意識、コミュニケーション行動、コミュニティ意識・行動、政治意識・行動によって構成)で住民類型の分布変化と昨年、再稼働反対派の候補に対し圧倒的な得票数で再選され、その正当性が確認されたと思われる桜井雅浩市長の「柏崎市地域エネルギービジョン」を支持する住民層との(仮説的に提示した)照応関係を本年度(2021年度)の住民意識調査で明らかにしたい。 ③2014年以降継続して行っている再生可能エネルギー事業体(「おらって新潟市民エネルギー協議会」)の運営委員会(月2回ないし3回)、定例会(月1回)イベント、シンポジウム等々への参与観察を更に継続して行う。
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Causes of Carryover |
既に【研究の進捗状況】で説明したように、2021年度に予定していた柏崎市民対象の世論調査を2022年度の実施予定に変更したため。 また、新型コロナウィルス感染拡大状況のなかで、2021年度に計画していた地域リーダーへのインタビュー調査を予定通りに行うことが困難となったため、その分の旅費を次年度使用額に回し、今年度の調査旅費に充てることになった。
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