2020 Fiscal Year Research-status Report
家族企業における経営と心性についての研究―女性経営者を中心に
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20K02150
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Research Institution | Osaka University of Economics and Law |
Principal Investigator |
荒木 康代 大阪経済法科大学, 経済学部, 教授 (10580243)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 女性経営者 / 心性 / 生活体験 / 感性 / 中小企業 / 事業継承 / 家族 / ランプ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、女性経営者を主な対象に、生活体験や家族との生活の歴史から生まれた心性や感性が事業継承や事業活動にどのように影響しているのか、ということについて調査を行っている。 近年、中小企業の廃業が大きな問題となっているが、その一方で女性が事業を引き継ぐ事例が増えてきている。なかでも、それまで家業経営に従事してこなかった家族(女性)が事業を引き継ぐ例が目立つ。彼女たちが事業継承を決意した背景には、どのような動機があったのだろうか。いくつかの事例を見ると、それまでの経営者自身の生活体験が事業継承に大きく影響しているのがわかる。そこで、本研究では、主に女性経営者を対象に聞き取りを行うことにした。このような事業継承及び活動と経営者の心性との関連について研究することは、今後の事業継承に対して何らかの貢献ができるのではないかと考えるからである。 現在聞き取りを行っているのは、国内で唯一石油ランプを制作している大阪のランプ製作所の5代目女性経営者とその母親である先代(4代目)である。大正末期に創業された同社は95年の歴史があるが、この間には、倒産をはじめとして多くの紆余曲折があった。これまでの聞き取り調査からは、両者が事業を引き継いだ背景には、それまでの生活体験とそこから生まれた思いがあったことがうかがわれた。 また本研究では、石油ランプの歴史とそれに対する事業経営の変化、さらに石油ランプの日本への流入と衰退、照明の変化の中で人々の生活がどのように変わっていったのか、ということについても調査している。同社の創業者がランプ製造を始めた大正末期はすでにランプが日常生活に使われることは少なくなっていたが、輸出や農業、漁業等の産業用に活路を見出すことができた。このような社会経済の変化もともに調査しているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年からのコロナ禍により、調査旅行や文献収集に十分に行けない状況下であるが、幸い調査対象のランプ製作所が大阪府下であることから、感染の治まっている時期に数度にわたって聞き取りを行った。また、関連文献に関しては、ネットを利用しての文献収集やデジタル国会図書館の統計資料等の閲覧によって、ランプ産業の歴史とともに、大阪府下のランプ工場および同社の状況についてもいくつかの情報を収集することができた。このことによって、研究はおおむね順調に進展していると考える。 これまで大阪のランプ製作所の5代目女性経営者およびその母親である先代(4代目)からの聞き取りおよび同社が保有している関係資料の閲覧を行ってきたが、それによって、同社の創業から現在までの歴史、特に両者が事業を継承した経緯についても詳しく知ることができた。 同社は、4代目の父親である3代目の時に倒産したが、この後、4代目は倒産後すぐに自らが経営者となって会社の再建に立ち上がった。また5代目が大学生の時にはランプのベテラン職人が亡くなり、ランプの製造が不可能になったが、5代目はそれまでまったく経験がなかったにも関わらず、大学を退学してランプ制作を引き継ごうと考えた。聞き取りからは、「ランプの灯を消したくない」という思いが語られたが、同時に、その背景には、子供のころから母親の出張に同行するという生活体験によって、ランプに対する心性が培われるとともに、母親を通して同社の事業に対する理解がはぐくまれていったことがうかがわれた。 本研究では、このような経営者の心性とともに、ランプ産業の歴史と人々の生活および感性に与えた影響についても文献をもとに調査しているところである。調査からは、明治期の石油ランプの出現による生活の変化と感性の変化や電気への移行の一方で、農業・漁業等の生業の場では戦後も長く使われていたことがうかがわれた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、遠方への調査旅行および新たな経営者への聞き取りが困難な状況であるが、今後コロナ感染が収まり次第、このような調査を進めたいと考えている。具体的には、元ランプ製造業者で現在多くのランプや関連資料を所蔵保管している長野県の某企業やその他ランプおよびガラス資料館やガラス会社(かつてガラス会社がランプのホヤを製造していたため)等への調査である。また、家業を継承した女性経営者への聞き取りも行いたい。 それまでは、聞き取りおよび文献をもとにこれまで収集してきた情報の整理・分析を行う予定である。また、現在行っているランプ製作所の経営者への聞き取りは引き続き行うことによって、さらに詳しく分析したいと考えている。
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Causes of Carryover |
旅費については、コロナ感染の拡大により、予定していた元ランプ企業等遠方への調査旅行ができなかったことによる。また、人件費・謝金については、新たな経営者への聞き取りができなかったため、聞き取り録音のテープ起こし等の人件費が生じなかったことによる。この点については、2021年度に行う予定である。
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