2022 Fiscal Year Research-status Report
胎児性・小児性水俣病患者の自立生活と主体形成への回路
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20K02228
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Research Institution | Kumamoto Gakuen University |
Principal Investigator |
田尻 雅美 熊本学園大学, 水俣学研究センター, 研究員 (70421336)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 社会福祉学 / 水俣学 / 障害学 / 持続可能 / 水俣病 / 胎児性水俣病 |
Outline of Annual Research Achievements |
水俣病は「公害の原点」といわれ、1956年の公式確認から66年が過ぎた。その間、胎児性・小児性水俣病患者たちは苦難の生活を強いられてきたが、その実態を知ることができる資料は極めて少ない。また、水俣病第一次訴訟以降の、彼らの自立運動・生活史に関して書き記されたものは極めて少ない。そのことが胎児性・小児性水俣病患者の経験と苦難に対する無理解につながり、本人主体の生活を阻むことになっている可能性は否定できない。 彼らが尊厳をもった生活を送れる環境の構築をめざすためには、本人の主体的な選択を尊重することが必要である。そのためには、当事者がこれまで歩んできた人生史を把握し、彼らが現在求めている生活を理解することが不可欠である。 研究代表者は2000年から20年以上にわたって、胎児性・小児性水俣病患者の研究に取り組んでいるが、これまでに得た資料・情報は、表面的なことにすぎず、当事者の自立を求める運動や生活史を理解するには不十分であることがわかった。そこで、彼らの生活史に、具体的にだれが、どのようにかかわり、どのような支援活動が始まったのか、その具体的活動内容、支援にかかわった人々、支援内容を把握することを喫緊の課題として、当事者、高齢化している家族や支援者、ソーシャルワーカーたちから、ヒアリングや資料の収集・分析を行うこととした。 本年度は、昨年度収集した、胎児性・小児性水俣病患者の水俣病第一次訴訟以降の自立のための運動と生活史の資料・文献について、①第一次訴訟判決後から政治的和解、②政治的和解から関西訴訟最高裁判決、③関西訴訟判決後から現在に時代区分をし、整理を行い、分析を行った。しかし、水俣市での新型コロナウイルス感染症が2022年より感染拡大したため、当事者や関係者の確認作業ができない状況となってしまい、さらに県外である新潟での調査ができなかったため研究に遅れが生じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究計画に示した胎児性・小児性水俣病患者の水俣病第一次訴訟以降の自立のための運動と生活史の調査を、①第一次訴訟判決後から政治的和解、②政治的和解から関西訴訟最高裁判決、③関西訴訟判決後から現在に時代区分をし、整理をする作業は順調に進んでいる。しかし、水俣市での新型コロナウイルス感染症が2022年に感染拡大したため、当事者や関係者から最終確認ができない状況となってしまったこと、および県外である新潟での調査が十分にできなかったため研究に遅れが生じた。電話やオンラインによるヒアリングも検討したが、ヒアリング対象者の多くには、オンラインの設備がなく、オンラインでのヒアリング調査はできなかった。そのため予算計上していた、新潟調査の旅費宿泊費、パンフレット作成費、翻訳費用など1,042,327円を次年度に持ち越さざるをえなくなった。次年度から新型コロナウイルス感染症が5類となることから、感染症対策を徹底し、最終確認と新潟調査を早急に行い、パンフレット作成を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、60歳を過ぎた胎児性・小児性水俣病患者が、介護の中心となっている家族・親族が亡くなった後も自ら選びとり主体的な生活を送るために、彼/彼女らが水俣病第一次訴訟判決以降、主体的に取り組み続けている自立を求める運動を明らかにし、それによって彼/彼女らが現在求める生活を実現し、自信と誇りをもち、尊厳を持った生活を送れる環境を構築することを目的としている。 そのため次年度は、遅れが生じている当事者および支援者の最終確認と新潟調査を早急に行い、胎児性・小児性水俣病患者の水俣病第一次訴訟以降の自立のための運動と生活史に関するこれまで蒐集した資料を加えて、内容をまとめ、分析を行い、胎児性・小児性水俣病患者の自立のための運動・生活史から現在求める生活とは何かを明らかにする。また、得られた成果からパンフレット「胎児性・小児性水俣病運動史・生活史(仮)」を作成する。調査の際は、感染症対策を十分に行い、対象者が安心できる環境を整える。
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Causes of Carryover |
本年度は最終年度として、まとめたものを日本語および英語でパンフレットを作成予定であった。しかし、水俣市内では2022年に新型コロナウイルス新規感染者が増大したため、最終的な確認調査が難しくなり、新潟での調査も次年度へ持ち越さざるをえなくなった。そのため、新潟調査旅費宿泊費、日本語と英語のパンフレット作成にかかる費用を支出しなかったため、残額が生じてしまったので、補助事業期間延長申請を行い、2023年度に実施することとなった。
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