2021 Fiscal Year Research-status Report
社会的包摂の実現に向けた意思決定支援の制度と実践に関する日本とイギリスの比較研究
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20K02251
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Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
麦倉 泰子 関東学院大学, 社会学部, 教授 (60386464)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 後見的支援 / 親亡き後の不安 / 知的障害 / 精神障害 / 横浜市 |
Outline of Annual Research Achievements |
障害のある人の地域生活を支える要となるのが定期的な訪問や面談による見守りである。横浜市には、地域で暮らすさまざまな障害のある人の自宅を訪問したり、最寄りの相談室に足を運んでもらったりすることで、ゆるやかなつながりを維持することを目指す「横浜市障害者後見的支援制度」と呼ばれる制度がある。本年度はこの制度がどのように運用されているのかを中心に研究を行った。 この制度は「親亡き後の不安」を地域のネットワークによって支えていくシステムの構築をめざして、市独自事業として平成22年にスタートした。一か月から数か月に一度の訪問や面談によって、知的障害のある人、精神障害のある人などが住み慣れた地域で安心して暮らすことをめざす取り組みである。 意図されているのは「親亡き後」の考え方の変化である。家族が担っている多岐にわたるケアを社会的に分有するための試みということもできるだろう。本人のこれまでの人生やこれからの生活の希望、身体的な特徴、介護に必要な知識などについて、家族以外にも、継続的に見守る支援者たちを作っていくことがこの制度の目的である。 この制度では、各区に設置された後見的支援室の「あんしんマネジャー」とよばれる職員が、本人や家族と話し合って支援計画を作成し、見守りを開始する。後見的支援室所属の「あんしんサポーター」は数か月に一度、訪問や面談を行う。継続的に顔を合わせていくなかで、本人のそれまでの生活史、これからの希望、いまの悩みや思いなどが、少しずつ丁寧に「記録」として蓄積されてゆく。こうしたゆるやかなつながりを保つことによって、いざ成年後見等が必要になった際にも、見落とすことなく支援につなげていくことができるのだ。直接的なサービス提供は行わないという制度の特性が、利害関係の少ないフラットな関係を築くことにつながっていることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
インタビュー調査を計画していたが、2021年度はコロナ禍によって対面による調査が困難になったため、研究計画の実施に遅れが生じている。 特に障害のある人の支援の現場においては業務を継続すること自体が危機的な状況となり、インタビュー調査への協力の依頼を十分に行うことができなかった。 後見的支援制度の特色の一つが地域住民に働きかけて見守りのネットワークを作ろうとしている点であり、制度を知って共感した人たちがボランティア的に参加登録を行う。障害のある人を支える実践を通して、地域の紐帯が強くなる可能性があるのだが、こうした活動の実施も縮小されたため、そこに関わる人たちの活動を調査することが困難になった。
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Strategy for Future Research Activity |
後見的支援制度がつくられた背景には、意図的につながりを作っていかなければ網の目からこぼれ落ちてしまう人が出てきてしまう、という問題意識であることがわかった。例えば高齢者の親が中年期の子どもを何らかの形でケアをしており、近所づきあいもないような場合、「こぼれ落ち」のリスクは高くなる。 つながりを維持するには、積み重ねられた信頼が必要だ。たとえば差し迫った困りごとはないものの、両親がいなくなったときに経済面・生活面で心配があるという本人の気持ちにどう応えるか。サポーターは、ご本人の好きなことが何か、丁寧に聞き取り、人となりをゆっくりと理解していく。サポーターの交代があっても、これまでの支援の内容が丁寧に記された記録によって情報共有が確実に行われ、支援の継続性が確保される。制度利用のための周知の方法にも工夫が凝らされ、ご家族の近隣住民との関係を自然に利用しながら見守りを続けている。対人関係に不安を感じる方である場合、無理にあんしんキーパーとのマッチングを進めることはしない。その他のサービスを受けておらず、いざというときのセーフティーネットとして機能する可能性があるのはこの制度の訪問等のみ、という場合もある。 さまざまなかたちで積み重ねられたその人についての理解と信頼が、どのようなかたちで「いざというとき」に、その人にとっての「最善の利益」=「ベスト・インタレスト」を考える下地になっていくのか。この点をこれから調査によって明らかにしていく予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により予定していた障害者相談支援の現場への訪問、調査データの整理、出張などを行うことができなかったため。 今年度は未実施の調査を実施する予定である。
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