2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K02260
|
Research Institution | Saiseikai Research Institute of Health Care and Welfare |
Principal Investigator |
原田 奈津子 社会福祉法人恩賜財団済生会(済生会保健・医療・福祉総合研究所研究部門), 済生会保健・医療・福祉総合研究所研究部門, 上席研究員 (20389513)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 災害福祉 / 福祉施設 / 受援 / 事業継続計画 / マニュアル / 研修 / 地域 / 連携 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、被災時の福祉施設の受援体制の普遍的な構築に寄与することを目指している。今年度は、福祉施設における災害対応や受援に関する調査を実施し、現状と課題を明らかにすることとした。 調査対象は、済生会の福祉施設の施設長又は災害対応の窓口となっている職員とした。調査方法は、質問紙を用いた郵送調査であり、所属する研究所内での倫理委員会にて調査の承認を得た上で、2022年2月に行った。 調査項目は、①施設の概要、②自施設のリスク把握(豪雨・地震等)、③事業継続計画(BCP)の作成状況、④被災時を想定した準備(マニュアルの整備、非常食の確保等)、⑤災害時の課題整理(人員体制、立地や設備、地域連携)、⑥職場環境(研修体制等)、⑦その他である。対象施設123のうち回収は108(回収率87.80%)であり、種別は、高齢者施設(74%)、障害者施設(7.4%)、児童施設(4.6%)、その他の順であった。 災害や感染症の対応として事業継続に向けた計画の策定や研修や訓練の実施を義務付けることとなっている。この調査においても大きな柱となる「事業継続計画の策定状況」は、策定済(34.6%)、策定中(47.7%)、未策定(17.8%)であり、対応に差が見られた。未策定の施設の理由として、情報不足や、策定にかかわる人員の確保、策定に向けた意識の低さなどを挙げているところもあった。また、全体として、災害への備えとして、食料や飲料水の確保や避難訓練の実施はほとんどの施設で行っているものの、災害時支援活動の受け入れの準備や地域の諸団体との協働による避難訓練の実施などに関しては課題が見られた。 今年度の研究によって、災害時の福祉施設の受援に向けた現状と課題を可視化できたことは非常に意義のあることだと考える。次年度では、インタビュー調査を実施し、地域性や災害に応じた受援のあり方について検討していく事とする。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
災害時の「受援」と「派遣」は表裏一体の活動であり、2020年度は「派遣」の側面に焦点を当て研究を行った。2021年度では、福祉施設の「受援」に着目し、災害時や感染症の対応としての事業継続計画の策定が課題となっている折に、福祉施設に対して、調査を実施した。コロナ禍により、タイミングを図りながら調査を実施することとなったが、災害時の受援や平時の準備などに関する現状と課題を明らかにできた。 また、質問紙においては、福祉避難所の指定についてもきいており、すでに指定を受けている施設と現在協議や検討を行なっている施設とあわせると6割強となっており、地域における福祉施設の果たす役割の重要性についても明らかになってきた。その一方で、福祉避難所としての機能を実際に果たせるのかという記述もみられた。行政をはじめとした近隣の関係箇所との連携などに課題がみられた。 研究に関する現場の職員との連携では、コロナ禍の影響もあり、直に会うことでの打ち合わせが難しい場合、メールによる意見交換など進め方についての工夫をその都度実施した。今後は調査結果をもとに検討を重ねていきたい。さらにインタビュー調査などを通して、災害時の受援について普遍化できる研究成果につなげたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度や2021年度の研究結果を踏まえ、さらに、ちょうど課題となっている福祉施設の災害時や感染症対応に向けた事業継続計画の策定も踏まえつつ、引き続き、福祉施設の「受援」について着目して研究を進め、検討していく。 受援体制の構築にあたっては、児童、障害者、高齢者など対象者に広がりのある福祉施設の特性や、さらに地域性も考慮しなくてはならず、それぞれに応じた受援の仕組みの構築が求められている。事業継続計画をすでに策定した福祉施設やこれまでに被災し受援した経験のある福祉施設への聴き取りを行うなど、多角的に受援の現状と課題を明らかにし、福祉施設の普遍的な受援体制の構築に寄与したいと考える。 2022年度は、インタビュー調査を通して、災害の種別や地域性を考慮した受援について、さらに具体的な課題整理を行なう。それらをもとに、被災を想定した受援マニュアルの整備と職員教育、被災時の受援体制、回復期としての通常業務へのシフトなどを現場職員などと共に検討していくことを予定している。 福祉施設における災害時の受援における「可視化」と「普遍化」のために、これまでの課題を整理し、ノウハウとスキルを蓄積することで、共通要素を導き出すことが可能になる。現場での実践に寄与していくことを最終的な目的としている。
|
Causes of Carryover |
インタビュー調査について現地への視察とあわせて行うことや学会発表での旅費などが予定されている。福祉施設における課題となっている事業継続計画も本研究に必要な新たな要素として追加し、関連した文献収集や調査などが必要となり、次年度の請求額に加え、使用していく予定である。また、調査の実施にあわせた報告書の作成での経費が必要なため、繰り越した形になっている。
|