2022 Fiscal Year Research-status Report
Verification of the relationship between formation of capabilities and activation in a broad sense for young women in need
Project/Area Number |
20K02293
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
天野 敏昭 神戸大学, 国際文化学研究科, 協力研究員 (40736203)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大村 和正 大和大学, 政治経済学部, 准教授 (30571393)
熊本 理抄 近畿大学, 人権問題研究所, 教授 (80351576)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 生活困窮 / 就職困難 / 若年女性 / ケイパビリティ / アクティベーション / 社会参入 / 職業参入 / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究で想定する若年生活困窮女性は、家事手伝いとして親世帯と同居している無業の未婚女性(ニート・ひきこもりを含む)、一人暮らしの無業の未婚女性、発達障がいやメンタルヘルス上の課題を持つ無業の女性で、就業の意向と就労支援の観点も含めて研究を進めている。2022年度は、無業の女性(未婚および有配偶の女性)の就業とその阻害要因について、ネットモニターを対象にしたアンケート調査を通して現状を把握したほか、支援組織とその支援者への聞き取り調査を通して、支援観と支援の現状を把握した。前者のアンケート調査では、①現在働いていない・働けない大きな理由として、働くことに対する不安があることのほか、健康上の理由の有無が、求職活動や就業意欲の有無に影響している、②仕事をしたい理由では、経済的な自立よりも生計の維持が主な目的で、仕事と生活の両立よりも生活に重点をおき自分の都合の良い時間で働きたい志向が主流である、③未婚女性の生活の満足度が、有配偶女性の満足度よりも有意に低い、④就業の意向が低いまたは求職活動を行っていない場合、学び・学び直しに取り組む傾向が低く、就業の意向が低い場合には、学び・学び直しに関心がない傾向が高いなどの現状を確認した。後者の聞き取り調査では、地域に密着して活動する民間就業支援機関が、生活や福祉など関わりのある他機関と連携し、生活支援の側面から求職に誘導し、相談や職業紹介だけでなく、スキルの習得や資格取得の支援、仲間同士の支え合いや交流の場の機能も果たし、学びと求職者支援が一体に行われ、地域の諸資源と連携を深化させ、地域のキャリアセンター的な機能も有していることを確認した。上記の現状と課題に対する支援の形として、「伴走型」、「集団型」、「自己解決型(自己解決への意識醸成と連帯的取組み)」の各支援が、当事者の社会的参入(自律)と職業的参入(自立)に重要であることを確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的は、「ケイパビリティの形成」(潜在能力:自らが価値をおく福祉を実現できる選択可能な機能の組み合わせとその能力)と「広義のアクティベーションの実現」(職業訓練やジョブマッチにとどまらない、就労の前段階になる社会への参加意欲や就労に向けた活動などの変化にも着目)により、当事者の意識・活動・成果の各レベルにおける主体性と共同性(連帯的取組み)の発現を通して、社会的参入と職業的参入の双方を実現するプロセスを生成する可能性と課題を検証することである。これまで、当事者の女性を対象にしたアンケート調査、支援組織とそこでの支援者の支援観と支援内容に関する聞き取り調査、女性の生活困窮や仕事の公正さの問題に対峙している社会運動家や社会運動団体に対する聞き取り調査を通して、それぞれの立場からの現状と課題の把握を進めてきた。これまで明らかになったことは、現状の政策の議論や展開(例:困難な問題を抱える女性支援法、女性版骨太の方針2023の策定議論)が、必ずしも現状の様々な可能性をふまえられたものとはいえず、困難な問題を抱えながらも政策の狭間におかれる可能性のある女性の存在が想定されることや、就労アクティベーションの傾向を強める傾向がみられる中で自律・自立につながらない可能性のある女性の存在が想定されることである。こうした想定に対して、上記に記載する、「ケイパビリティの形成」と「広義のアクティベーションの実現」が重要であることをある程度まで見出すことができた。しかし、コロナ禍で十分に行えなかった調査対象先への調査、直近の政策検討の動向をふまえての男女共同参画や女性支援に関係する機関ならびに支援組織等での今後の対応の方向性を探ること、また、研究実績の概要に記載した「自己解決型(自己解決への意識醸成と連帯的取組み)」の支援の可能性について諸外国の先行的な事例から示唆を得るなどの検討課題がある。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、若年生活困窮女性の現状を詳細に把握する目的に向け、着目する調査対象を20~49歳程度までの未就業の非婚女性で就業を希望する単身世帯および家族世帯の女性(就職困難層)に絞り、具体的な対象層として、生活保護受給に至らないが経済的に困窮している女性、発達障害グレーゾーンの女性、長期の失業者・無業者の女性の実態を把握する方向で研究を進める。具体的には、ネットアンケートにより、当事者の現状を把握する目的に向け、①自立・自律に通じ得る頼れる先の有無(政策、居場所、地域資源)、②不安・悩み・希望・期待、③必要な支援・資源、④社会のあり方、⑤内的体験と変容などの調査項目の把握を通じて、当事者の現状と課題を明らかにし、さらに、政策的な対応の現状と対比することで、今後求められる取組み等の考察につなげていく。また、支援組織ならびに支援者の実態の把握(質問紙調査、聞き取り調査)を継続する。主な方法は聞き取りによるが、公的組織(国立女性教育会館および男女共同参画センターや女性センター等)の取組みと当該組織における相談者・利用者の状況、並行して、生活支援や就労支援に取り組んでいる民間組織の取組みと当該組織における相談者・利用者の状況、また、支援者の内的体験と変容や多機関連携による包括的な支援の可能性などを把握する。そして、公的組織と民間組織を対比して検討することで、現状の政策面の課題と今後求められる取組みの方向性を見出す。さらに、研究分担者と分担して、国内の状況と海外の事例(韓国、英国、フランス)の比較検討を行う。比較検討の主な着眼点は、日本で十分に進展していないと考えられる、集団型および自己解決型(自己解決への意識醸成と連帯的取組み)の各支援の現状を把握し、今後への示唆を得る目的で進める。なお、上記の各調査研究と並行して、前年度までに行った調査結果をふまえて論稿をまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う国内外の影響に起因する、調査対象先のおかれた状況などにより、調査の実施そのものや日程の調整が困難化したケースが少なくなく、国内外での現地調査を行えなかったこと、また、調査対象の現状を鑑みて、コロナ禍の影響が引き続きみられ、当初の調査目標にあげていた構造的な現状と課題を把握する目的には時宜を得ていないと判断したため、質問紙調査、ネットモニター調査、現地聞き取り調査のそれぞれを先延ばしにしたことが大きな理由である。このほか、講師や指導助言者を計画通り招聘できなかったことなどの理由も重なり、次年度使用額が生じた。2023年度は、コロナ禍による行動制限からの解除や社会経済活動が再開されることに伴い、上記の各調査を実施するほか、出来得る限り国内外の調査を行うことにより経費を執行していく計画である。
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Research Products
(3 results)