2023 Fiscal Year Research-status Report
母親の就労環境がもたらす「時間の貧困」が子どもの生活習慣に及ぼす影響
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20K02323
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
冬木 春子 静岡大学, 教育学部, 教授 (60321048)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 母親 / 父親 / 育児 / 就労 / 時間貧困 / 幼児 |
Outline of Annual Research Achievements |
グローバリゼーションの進展を背景に「非正規」や「非典型時間帯」での就業が増えており、働く母親において「時間貧困」に陥る可能性が想定されている。今年度は、静岡県の地方都市において、幼稚園に子どもを通わせる父親及び母親を対象に質問紙調査の分析を行った。 第一に「よりよい子育て」をめぐる母親たちの選択の類型化では、最も多いのは「全方位型子育て志向」であり、地方都市においても母親自身による「よりよい育児」に加えて、専門家による教育も受けさせ、就学時において「有利」となる多面的な能力を獲得させようと競う母親たちであった。また、父親が高学歴である層が知育系の教育サービスの利用により積極的である可能性が示された。このことから、地方都市在住の母親においても、早い時期から就学に向けて準備をし、少しでも子どもの就学や将来に「有利」な状況を作り出そうとしていると言える。 第二に、子どもの生活と遊びを豊かにする「よりよい育児」の遂行実態を明らかにしたところ、母親は「知的刺激」や「生活習慣」を整えることが中心であり、とりわけ「知的刺激」や「生活習慣」に関する育児は、時間的に余裕のある専業母親によって遂行されていることが多かった。「よりよい育児」は、親の社会経済的環境によってその遂行度に差異が生じていると言える。 第三に、就労している母親の方が運動系の教育サービスの利用に積極的であることが明らかになったが、母親たちは就労することで積極的に育児を外部化し、安くはない運動系教育サービスにかかる費用の捻出をしていると考えられた。今後、パートタイム労働などが増えることが予想されるが、それによって子どもとの時間が減少し、親自らが「よりよい育児」を遂行する時間的余裕が減少する可能性も否定できない。そのような状況において、育児を外部化することで育児時間の不足に対処するという選択も増えるのではないかと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大により、調査対象とする幼稚園での調査が延期になったことから、調査の時期が遅れ、2022年に幼稚園の父母を対象にした調査を実施した。対象者は幼稚園に子どもを通わせる父母であり、「ふたり親」家庭が多く、「正規で働く父親」と「専業母親」あるいは「非正規で働く母親」の組み合わせが多く、結果を一般化することにやや課題が生じた。すなわち、父母ともに「正規で働く」あるいは「非正規で働く」家庭や「ひとり親」を対象にする必要性が見出された。 そこで、同市における全公立保育所を利用する父母を調査対象に拡大することとして、2023年に調査の実施を行った。2024年は、その調査データを分析、まとめ、公表を行い、遅れを取り戻すつもりである。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、保育所を利用する父母を対象にした調査データを分析し、学会発表を行い、論文等で公表するつもりである。具体的には、親の夜間等の非典型時間帯での就労に着目し、「時間の貧困」が「遊びの共有」「子どもの心の寄り添い」「生活習慣の配慮」にどう影響するのかを明らかにする。また、「経済的貧困」や「人間関係の貧困」にも着目し、それが子育てに及ぼす影響についても検討していく。これらを通して、女性活躍の推進を進めるなかで、子どもと親のウエルビーイングを保障する社会経済的環境のあり方について、考察を行うつもりである。場合によっては、海外の事例なども参考にしながら、具体的な取り組みをも提案していくつもりである。 研究のまとめとして、研究対象となった幼稚園及び保育所(保育課も含む。)に結果のまとめ・報告書をお渡しして、助言を頂き、これからの関係づくりにも努めるつもりである。
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Causes of Carryover |
日本保育学会はオンライン開催となったことや、日本家政学会家族関係学部会での家族関係セミナーへの参加は多忙のため取りやめたことによって、想定していた旅費が未使用になったことによる。 保育所の父母を対象にした調査について、当初は外部機関に委託して実施する予定としていたが、勤務校で研究補佐員の雇用が認められたこともあり、外部機関に委託することなく実施することができ、その費用が未使用になったことにもよる。しかも、謝金として調査補助にかける費用も未使用となったことにもよる。 本年度は、未使用になった助成金を用いて、日本家政学会をはじめとして学会発表を行う予定としており、その旅費等に充てる予定である。また、研究のまとめとして、先進的な取り組みを行っている地域の視察なども行いたいと考えている。
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