2020 Fiscal Year Research-status Report
Mites and fungal control of branched fatty acids and its application to indoor environment
Project/Area Number |
20K02328
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
森田 洋 北九州市立大学, 国際環境工学部, 教授 (30321524)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 分岐型脂肪酸 / 室内塵性ダニ / 防除効果 / 2-ブチルオクタン酸 / 室内環境 / 微生物制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の住環境の高気密・高断熱化により、室内環境におけるダニやカビ等の発生が大きな問題となっている。本研究では分岐型脂肪酸類に着目をして、室内環境微生物に対する効果の検証とその防除機構の解明を進めることにより、室内環境の改善に応用可能な実証的研究を行うことを目的としている。本年度は主にダニに対して防除効果の高い分岐型脂肪酸類の分子構造の探索と作用機序の解明について研究を行った。 様々な炭素鎖長を有する分岐型脂肪酸(iso-C8~iso-C20)を用いて、室内塵性ダニに対する殺ダニ試験を実施した結果、2-ブチルオクタン酸(iso-C12)が最も高い殺ダニ効果を有していた。また分岐型脂肪酸の殺ダニ効果は同じ炭素数の直鎖型脂肪酸に比べて高い傾向にあり、いずれも気体状態ではなくダニに直接接触する方が効果は高かった。一方で分岐型脂肪酸塩に対しては殆ど効果を発揮しなかった。分岐型脂肪酸は濃度の低下に伴い殺ダニ効果が低くなる一方で、忌避効果は高くなる傾向が認められた。市販防ダニ剤の有効成分(フェノトリン)と比較した結果、iso-C12はコナヒョウヒダニに対してフェノトリンと同等の忌避効果で、ケナガコナダニに対してはフェノトリンの効果を上回る結果となった。 コナヒョウヒダニは一部の分岐型脂肪酸で、接触による表皮の紋理模様の消失が認められたことから、皮膚呼吸を阻害する可能性が示唆されたが、ヤケヒョウヒダニ及びケナガコナダニは大きな変化が認められなかった。また、分岐型脂肪酸は短時間の接触で静かに死に至ることから(immobilizer type)、呼吸系を標的とする可能性が示唆された。 また室内環境で問題となるアカントアメーバや皮膚常在菌に対しては分岐型脂肪酸塩が高い防除効果を発揮していることが明らかとなり、以上の成果は室内衛生環境の改善という観点から、学術的・実用的にも大きな進展をもたらした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の最も大きな成果は室内塵性ダニに対して最も効果の高い構造の分岐型脂肪酸を見いだしたことにある。2-ブチルオクタン酸(iso-C12)はコナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、ケナガコナダニのいずれに対しても最も高い殺ダニ効果を有しており、市販の防ダニ剤中の有効成分であるフェノトリンと比較して、特にケナガコナダニの防除効果が大きく上回る結果となった点は、室内環境に利用可能なものづくりへの実証的な検討を行うという本研究の最終目的を達成しうる有益な成果といえる。また分岐型脂肪酸の防除機構の解明についても大きな成果をあげた。コナヒョウヒダニは分岐型脂肪酸の付着による皮膚呼吸の阻害が殺ダニ作用機序の一因であることが示唆されたが、ヤケヒョウヒダニやケナガコナダニに対してはこれが認められなかったことから、別の作用機序も存在すると考え、分岐型脂肪酸の速効性及び薬剤接触後の毒性症状の挙動の観測を行うことより、標的グループの検討を行った結果、分岐型脂肪酸は速効性があり、いずれのダニもimmobilizer type的挙動を示すことが明らかとなり、呼吸系を標的とすることでダニ防除効果を発揮することが示唆された。 また同じく室内環境で問題となるアカントアメーバではイソステアリン酸カリウム(iso-C18K)が、体臭の原因となる皮膚常在菌に対してはイソヘキサデカン酸カリウム(iso-C16K)が高い効果を発揮することが明らかとなり、室内衛生環境の改善という観点から、学術的・実用的に大きな進展をもたらした。 新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年度は関連学会の開催が中止となり、当初予定していた学会発表ができない事態となったが、今年度は分岐型脂肪酸類によるダニやアメーバ、細菌類の防除効果について数多くの知見を明らかにし、論文発表もできたことから、研究は概ね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方針は、分岐型脂肪酸類の抗カビ効果について、分岐した種々の鎖長をもつ脂肪酸類(脂肪酸、脂肪酸塩)を対象に効果の高い分子構造の探索を行う。使用するカビには代表的な室内カビであるアスペルギルス属菌及びクラドスポリウム属菌を用いる。この際にカビの生活環に配慮をし、カビ胞子の発芽阻害効果や菌糸体の成長阻害効果の検証を行うことにより、生活環の各ステージにおける分岐型脂肪酸類の効果について明らかにする。また効果の高い分岐型脂肪酸類の防除機構を明らかにするため、分岐型脂肪酸類の接触の有無による形態的な変化の観察を行う。室内カビに対して効果の高い分岐型脂肪酸類を見いだした後は、ダニに対して防除効果の高かった2-ブチルオクタン酸(iso-C12)とともに畳表に固定化することにより、防ダニ・防カビ機能を付与した新規畳表の開発とその実証試験を行う。 室内塵性ダニを対象にした研究では、防除効果の持続性試験を行う。この際に配慮すべき点は「効果の高さ」と「持続性の高さ」にある。他の分岐型脂肪酸と比較をしながら、最も防除効果の高かったiso-C12の有用性について明らかにしていきたい。また農業の病害虫として問題となっているナミハダニを研究対象に加えて、分岐型脂肪酸の反復試験やダニの生育ステージに基づいた防除効果の検討を行う。更には不織布や樹脂等にダニ防除効果の高かったiso-C12を含侵・固定化することにより、室内環境で利用可能な新規材料の創出も併せて行う。 また室内環境において、室内干しによる洗濯物の生乾き臭が問題となっている。この原因は皮膚常在菌をはじめとする細菌類の繁殖によるところが大きいことから、室内環境に利用可能なものづくりへの実証的な検討として、皮膚常在菌に対して抗菌効果の高かったイソヘキサデカン酸カリウム(iso-C16K)を用いて、洗濯洗剤の抗菌剤としての応用研究を進める。
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Research Products
(4 results)