2021 Fiscal Year Research-status Report
アカガイが鉄欠乏性貧血の改善効果を有する加工食品としての可能性の研究
Project/Area Number |
20K02341
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
樋口 智之 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (80597469)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アカガイ / ヘム / 鉄欠乏性貧血 / エリスロクルオリン / 鉄 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄は不足しやすい栄養素で、鉄欠乏性貧血の予防のために鉄が豊富な食品の日常的な摂取が不可欠である。獣鳥魚肉類は酸素運搬タンパク質であるヘモグロビンやミオグロビンを有し、その補欠分子族であるヘムに鉄が結合したヘム鉄を多く含む。ヘム鉄の腸管吸収率は非ヘム鉄に比べて4~5倍高く、効率的に鉄を補給できる。アカガイやサルボウガイ(モガイ)といったフネガイ科アカガイ属貝類は他の二枚貝と異なってヘム鉄を含有し、アカガイ属貝類は鉄供給食材としての有効性が期待できる。本研究は、アカガイが鉄供給食材、さらには鉄欠乏性貧血の予防および改善に資する食品としての可能性を検討している。 アカガイが種々の食品加工や料理法へ適用されることにより幅広い利用の機会が増加する可能性がある。しかしながら、加工処理や調理によって食品に含まれるヘム鉄含量への影響についてはあまり報告がない。今年度はよく行われる加工処理の1つである加熱の影響と、発酵やゲル化反応の過程で見られるpHの変化、そして添加物などの共存によるアカガイ中のヘム鉄含量への影響について検討した。 アカガイを40~100℃の範囲で最大60分間加熱をし、ヘム鉄含量を測定した。その結果、大抵の加熱条件ではヘム鉄含量に大きな変化は見られなかったが、100℃で60分間加熱するとヘム鉄は著しく低下することが分かった。食品添加物で使用される機会が多い亜硝酸ナトリウム、クエン酸、エリソルビン酸のヘム鉄に対する影響を調べるために、これらをpH4とpH7それぞれの条件下で赤貝に添加してから時間の経過に伴うヘム鉄含量を測定した。その結果、クエン酸が共存する場合いずれのpHにおいても時間の経過とともに減少することが分かった。以上より、100℃の長時間加熱やクエン酸共存下では、アカガイ中のヘム鉄の減少が起こる可能性が示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度はアカガイに含まれる鉄以外の食品成分(脂質、タンパク質、灰分)の分析を計画していたが、未達成だった。今年度はこの計画を達成することができ、また今年度計画していたアカガイの加工処理によるヘム鉄含量の影響に関する分析もおおむね達成でき、研究の進捗は順調である。未だ高pH条件下の検討や、鉄と結合することができるポリフェノール類共存下の影響の解析結果が出ていないが、現在実験を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、アカガイが鉄欠乏性貧血の改善効果を有することを検討するために、動物実験を行う。適齢Wistarラットを用いて、鉄欠乏不配合飼料を摂取させて鉄欠乏性貧血を誘発する。発症を確認したのち、AIG93G標準飼料を摂取させる群をコントール(n=7)とし、鉄欠乏飼料を摂取させ鉄欠乏性貧血を発症させ、その後鉄欠乏飼料群(n=7)、アカガイ配合飼料群(n=7)に群分けして各飼料を8週間与えて飼育し、その後ラットから血液を採取し、血清鉄、鉄結合能(TIBC)、血清フェリチン量、ヘモグロビン量、ヘマトクリット値を測定してアカガイの摂取による貧血の改善効果を明らかにする。 鉄は腸内の弱アルカリ環境下でリン酸塩または炭酸塩を形成して不溶化することにより、腸管吸収率が低下する。鉄はヘム分子と結合することによって不溶化が阻害され、腸管吸収率が向上する。食品添加物にはリン酸塩、クエン酸など金属イオンと結合するものが多く、ヘム分子と同様に腸管吸収を促進するものもある一方、植物性食品に多く見られるシュウ酸、フィチン酸、カテキンなどのポリフェノールなどのように逆に阻害するものもある。アカガイのヘム分子が鉄と結合することにおいてこれらの物質と競合する可能性について検討する。これら競合化合物共存化でアカガイをホモジナイズし、得られた試料中の総鉄、ヘム鉄および非ヘム鉄含量の変化を測定する。
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Causes of Carryover |
新型コロナの影響により申請時に計上していた旅費等を使用しなかったために生じた。これは今年度計画している動物実験に主に使用する予定である。
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