心電図検出用電極の最適化と次世代衣料型スマート装具の提案

2020 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 20K02343
• Research Institution: Shinshu University
• Principal Investigator: 金井 博幸 信州大学, 学術研究院繊維学系, 准教授 (60362109)
• Project Period (FY): 2020-04-01 – 2023-03-31
• Keywords: スマートテキスタイル / 生理的機能量計測 / 心電図 / 装具 / 動作適応型電極 / オーセチック構造 / 接触圧力

Outline of Annual Research Achievements

本研究では2つの技術的観点から研究テーマに取り組んでいる。1つ目は，(1)高い心電図信号の検出力を有し，身体への圧迫を抑制することで不快感を軽減できる衣服型心電図センサの開発である．2つ目は(2)既存の被服構成方法によらない電極構造を提案することである．
上記(1)について，まず，人体表面にて観測される心電図信号を効率的に取得するための電極配置を検討する目的で体表面電位図の計測に取り組むための予備実験を行った．また，圧迫感による着心地の低下を防ぐため，被服を構成する生地にシングルラッセル編物に注目した．これが，現在流通する衣服型心電図センサにおいて一般的に採用されているトリコット編物と比較して着心地の改善に及ぼす効果を検証した．
上記(2)について，本年度は，電極部構造体の機構について検討した。現在市販のスマートウェアでは，身体動作に伴って皮膚に接触している心電図検出用電極部が皮膚上を滑走して接触インピーダンスが一時的に増大し，心電図信号が検出できなくなる課題がある。このような課題に対して，本研究では，Auxetic構造体を用いて電極を構成することで課題への対応可能性を検討した．Auxetic構造とは，一方向に引張伸長するとき，同時に垂直方向に拡張する性質をもつ構造体のことである．これを電極の構成要素とすることで, 動作に伴って生じる衣服の引張伸長により電極部が垂直方向，すなわち皮膚面に対して垂直な方向に拡張することで皮膚面に密着する．この時，皮膚への圧力が増加することが期待でき，これが垂直抗力となって電極と皮膚の摩擦力を増加させる．これにより電極と皮膚の滑走現象を低減できるものと期待される．
本研究では，光造形方式の３Dプリンタを用いてAuxetic構造体を作製し，これを用いて電極を構成した．そして，衣服変形を想定した伸長時に皮膚上に作用する衣服圧の測定を行った．

Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

上記(1)について，6chの信号を同期的に計測できる心電計に対して一定時間毎に信号入力チャンネルが切り替わる機能を持つ端子台を試作して繋いだ．体幹部前面60か所，後面60か所にディスポーザブル電極を設置し，立位，座位，仰臥位で観測される各チャンネルの心電図信号を計測した．被験者の負担軽減のため，前面と後面は分けて体表面電位図の計測を行った。
上記(2)について光造形方式の3Dプリンタを使用し，Auxetic構造体として知られるリエントラント六角形について，構造を変更して作製した．成型は，高い可塑性を示す３種類の紫外線硬化樹脂を用いて行い，一次硬化，洗浄，2次硬化の工程で行った．引張試験機でリエントラント六角形構造体を一軸伸長させ，その時の垂直方向に対する伸長変形を観察した．観察は２台の画像センサを用いたDLT法で行った。その結果，理論的に導出される伸長変形の70％相当の伸長変形が観測された．また，この変形は材料によらず，構造に起因することを明らかにした．
続いて，これらのリエントラント六角構造体を組み込んだ模擬電極を試作し，これに一方向の伸長変形を与えた際，これと垂直の方向に生じる伸長変形によって作用する圧力値を測定した．測定にはエアパック式衣服圧計測機を用いた．測定の結果，18mmの伸長変形を与えた際，これと垂直の方向に4.27kPaの衣服圧が作用することを確認した．
このことから，提案した模擬電極を用いることで電極部を皮膚に強く押下すると考えられ，これによって皮膚と電極部の滑走を抑制されることが期待される．

Strategy for Future Research Activity

上記(1)について，引き続き体表面電位図計測を実施することでデータの充実を図る。また，取得したデータの解析を進める．具体的には，電極の設置位置と電位の出力との関係を明確にして，電極の候補位置として，陽極，陰極それぞれにとって効果的な配置を探索する。また，これに加えて，衣服変動が小さい位置を探索するための実験方法についても検討する．さらに，電極を身体により効率的に押下することのできる部位についても検討する．これらの観点から効果的な電極配置の候補を検討する．
上記(2)について，Auxetic構造体の一つであるリエントラント六角形構造体を組み込んだ模擬電極を作製した．これを実際の装具に一体成型するための装具の構造について検討を開始する．これらの試みを通じて，既存の被服構成方法によらない次世代の衣服型心電図センサの提案を目指す．
本年度の研究成果について日本繊維機械学会第７４回年次大会，ならびに日本繊維製品消費科学会2021年度年次大会にて，３件の研究成果発表を行う計画である．また一部の成果について論文執筆を行い，査読有雑誌に投稿する．さらに，新規発明として２件の特許出願を検討中である．