2020 Fiscal Year Research-status Report
女子体操服をめぐる議論と実践の日米比較―セーラー・ブルーマー型体操服を中心に
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20K02361
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
難波 知子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (80623610)
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Project Period (FY) |
2020-02-01 – 2024-03-31
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Keywords | アメリカ / 女子体操服 / ブルーマー / スポーツウェア / gym suit / dress reform |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、1880~1900年代アメリカの女子高等教育機関において体操服が着用された状況と具体的な体操服の形式について文献資料より探ることを課題とした。調査対象とした文献資料は、日本で入手・閲覧が可能なアメリカの女子体育の歴史および女性のスポーツウェアの変遷を扱ったものとした。その結果、以下のことが明らかとなった。 1)19世紀半ば以降の女子大学の創設当初より、女子の体操はカリキュラムに組み込まれた。運動に適した服装の着用が求められたが、そのスタイルの選択は学生に委ねられていた。1860年代に体操の指導者であったDio Lewisが推奨した体操服は、肩と腰まわりを自由に動かすことのできるルーズフィットした上衣と膝下丈の短いスカートの下にブルーマーを着用したものであった。 2)しかし19世紀を通じて女性がズボン(ブルーマー)をはくことは受け入れられず、それが可能であったのは、男性が排除された女子の高等教育機関という場であった。しかもブルーマーの体操服を着ることができたのは、屋内の体育館の中で体操やスポーツが行われる場合のみであり、屋外で人目(とりわけ男性の視線)に触れる場では、ブルーマーをはいた脚を見せないように上からスカートをはかなければならなかった。 3)1890年代には屋内で行われるチームスポーツとしてバスケットボールの人気が高まり、体操服は揃いのユニフォームとなり、ブルーマーの上にはかれたスカートが取り払われた。しかし体育館への男性の立ち入りは禁止された。一方、屋外で行われたボートやフィールドホッケーのユニフォームは、依然としてブルーマーの上にスカートをはくスタイルが維持された。 1900年前後に留学した井口阿くりは、女性がズボンをはくことを許容しないアメリカ社会の中で、ブルーマーの上にスカートをはく経験をしたものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度前半は、産前・産後の休暇および育児休業の取得により、2020年4月~9月まで研究を中断した期間があり、実質的な研究活動は10月以降の半年間に限られた。そのため、採択時の研究計画を見直し、2020年度は1880~1900年代のアメリカの女子体操服に関する文献調査を行い、翌年度(2021年度)に研究成果の発表を実施することとした。また採択時の研究計画では、アメリカに渡航して文献資料や体操服の実物資料の調査を行う予定であったが、COVID-19の影響により渡航を断念し、日本国内で入手・閲覧が可能な文献資料を収集、分析することとした。 2020年度に行えた文献調査は、申請者の所属機関が所蔵している資料に加え、アメリカの女子体育および女性スポーツウェアに関する電子書籍を購入して分析を進めたが、入手が叶わなかった文献も複数あった。そのため、2020年度に取り組む予定であった研究課題を十分に達成することができなかった。したがって、翌年度も引き続きアメリカの女子体操服に関する文献調査を進めながら、井口阿くりが留学したスミス大学とボストン体操専門学校の体操服の事例の検討を進めていきたいと考えている。文献収集の方法としては、書籍および電子書籍の購入に加え、日本の大学や研究機関に所蔵される文献資料について図書館相互利用サービスを利用して閲覧したり、アメリカ在住の研究協力者に文献入手を依頼するなど、コロナ禍でも実現可能な調査の手段を模索し、2020年度の研究課題の遅れを取り戻したい。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度はアメリカの女子体操服全体に関する文献調査を行ったが、次年度は井口阿くりが留学したスミス大学とボストン体操専門学校の事例に焦点をあて、一次資料の収集に取り組み、日本に持ち帰られたセーラー・ブルーマー型体操服の起源を特定し、分析を進めたいと考えている。次年度も引き続きCOVID-19の影響から渡航は不可能であると考えられるため、一次資料の収集にあたっては、オープンアクセスが可能なデジタル資料を調査したり、資料所蔵先のアメリカの大学や博物館などへメールで問い合わせて複写依頼をしたり、研究遂行に必要な情報や資料の収集を進めていきたい。これらの手段を講じても一次資料の収集が困難な場合には、2022年度以降に計画していた日本におけるセーラー・ブルーマー型体操服の普及状況に関する調査を年度を繰り上げて行うことも考えたい。 なお、2020年度の調査で得られた研究成果については、2021年度に研究発表、論文投稿を行う予定である。
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Causes of Carryover |
研究活動が年度後半の半年に限られ、年度内に入手できる海外の文献資料が限られたため、次年度への繰り越し額が生じた。次年度の予算と合わせて、引き続きアメリカの女子体操服に関する文献資料の入手にかかる費用(書籍の購入に加え、文献複写の代金や現物貸借にかかる郵送代なども含む)として使用していきたい。
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