2020 Fiscal Year Research-status Report
公的統計を用いた各種住宅水準がヒートショック関連死亡率に与える市町村別の影響分析
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20K02382
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
西川 竜二 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (00307703)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ヒートショック / 死亡率 / 標準化死亡比(SMR) / 住宅 / 住宅断熱性能 / 住環境 / 気象データ / 生活習慣 |
Outline of Annual Research Achievements |
3年計画の初年度のR2年度は、次のことを行った。 1.秋田県の市町村を例に、公的統計データの調査・収集と分析用データの加工・整備を進めた。①死亡率(ヒートショック関連の脳血管疾患・心疾患と死因上位の悪性新生物・肺炎・老衰・不慮の事故)は人口動態統計から標準化死亡比(2013~17、2018)のデータを入手や作成し、②対応する期間の気象データはアメダス観測点の毎時データから外気温の統計値や暖房デグリーデーを作成、③住宅と社会経済要因は、住宅・土地統計調査データから住宅の種類・面積・建築年・窓の層数・バリアフリー等の建物要因、世帯構成・収入・最寄りの施設等の要因の割合を算定した。生活習慣(健康感・食・運動・健康診査受診等)データは、国民健康・栄養調査を補完する秋田県健康づくりに関する調査の資料を入手した。 2.作成したデータで住宅と他の要因が死亡率に与える影響と構造の統計分析(相関・回帰分析と共分散構造分析による因果関係のモデル化)を行った。成果の例として、男性の心疾患の死亡率は、よく用いられる重回帰分析のステップワイズ法では 1980 年以前築の住宅割合のみを説明変数としたモデルが求まった。秋田は木造戸建の持家率が高く、昔の地方の家は広く、1980 年以前は省エネルギー基準施行前で無断熱なのでヒートショック発症の危険が高く、それを指標にした住宅の改善策が有効だと統計データから裏付けた。それに加えて、仮説検証型の共分散構造分析も丁寧に行うことで、住宅全ての窓を複層化した割合と生活習慣の喫煙率から成るモデルも有効だと導いた。住宅行政では「全て又は一部の窓を複層化」した住宅割合の増加が政策指標とされるが、一部の窓の複層化では住宅全体が保温されず、特に浴室等が寒い為、ヒートショック予防には「全ての窓の複層化」を指標とした政策が有効であると、県単位の丁寧な分析方法により示せた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実施計画では、初年度には、主なヒートショック関連の死亡率を目的変数として、住宅・生活習慣関連の統計データの収集・整備とその分析をほぼ終わらせることにしていたが、統計データの入手や加工が完成していないものもある(死亡率の最新の2018年のデータの加工など)。統計データの加工は、大学の学部生のアルバイトの協力も得て実施することにしていたが、新型コロナ感染拡大とその防止対策による大学への入構禁止や活動制限などの影響が長期化し(R2年度前期の授業は原則全て遠隔で、後期も一部対面も再開したが遠隔中心と厳しい対策を取っていた)、学生にデータ整理のアルバイトに従事してもらえる時期が遅くなり、従事人数と時間も予定より少なかった。 ただし、当初計画よりデータの整備の遅れが出たものの、2013~17年の死亡率に対して、気象、住宅、生活習慣の一通りのデータを整備し、分析方法の確認と一定の分析結果を得られた。 また、県内の自治体の健康行政の担当部署との情報交換を行い、本研究課題の過年度からの取り組み成果を説明し、R3年度以降の情報交換と健康推進事業を通じての住民への研究成果の提供の足掛かりを得た。 なお、本科研費に関する研究発表(R2年度研究成果)については、まず成果の一部をR3年度の日本建築学会の全国大会の学術研究発表会に申し込み(4/12締切)しており、9月に発表を行う予定である(5/18に発表番号とプログラムの通知、題目「秋田県内の市町村単位でみたヒートショック関連死因の死亡率と住宅熱環境に関する統計分析 その3」)。初年度の成果を2年目に学会発表することは、当初の計画通りであり、遅延ではない。 以上より、総合的に見て、やや遅れているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まずはR2年度に未入手や作業中のデータの整備及び拡充を進める。また、統計分析と解釈を進め、ヒートショック関連の死亡率とそれ以外の死亡数上位の死因(悪性新生物・肺炎・老衰・不慮の事故)についての住宅・気象・生活習慣・社会経済的要因の影響と因果関係の構造とを明らかにしていく。分析の統計手法には重回帰分析と共分散構造分析を組み合わせて、目的変数の死亡率などと説明変数となる住宅要因その他の各種要因との間の因果関係のモデルをパス図で視覚的にも分かりやすく示し、また、説明変数として住生活基本法と健康日本21の政策指標である変数の評価も含めて、地域の住宅・健康行政や住民の生活改善に有効な要因と因果モデルを見出す。更に、目的変数と説明変数の因果関係の時間的な先行性も考えて、例えば、2013~17年の死亡率に対してその5~10年前の2008年の住宅・土地統計調査を説明変数にした時系列的な影響の分析も行う。 また、本研究では、初年度と2年目に「自治体の健康行政の担当課や保健所を訪問して情報収集や意見聴取を行う」こととしており、2・3年目には「地域の住民・住宅事業者・自治体職員などに、研究成果を提供して役立てもらえる機会を設ける」こととしている。R2年度に情報交換を行った県内自治体の健康福祉部では運動と食行動から住民の健康を増進して医療費を削減する健康まちづくり事業をスタートしたが、住環境の分野が抜けていることから、本研究で得られた知見を自治体の健康推進事業に活かせるように提供や支援していく予定である。 研究遂行の課題として、R3年度も新型コロナによる学生アルバイトの制限や自治体訪問や住民への健康増進イベントの延期・中止も起こり得るので、アルバイトが必要な作業の調整、リモートの活用、実施の時期の変更などで対応しつつ所期の目的を達成する。
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Causes of Carryover |
R2年度に次年度使用が生じた費目は、「旅費」、「人件費・謝金」、「その他」である。「旅費」は自治体訪問の交通費として計上したが、新型コロナの影響により訪問は2回に留めた。「人件費・謝金」はデータ整理の学生アルバイト費用であるが、新型コロナで学生アルバイトの開始遅れと人数・時間数の制約があり、当初予定分を使い切らなかった。「その他」は統計データの有償のオーダーメイド集計用に計上していたが、無償の公表データの整備を先に行い、その上で不足や必要なデータの補充を考えたために次年度使用になった。 今後の使用計画は、繰り越した「旅費」は自治体訪問に使用するが、R3年度も新型コロナの問題で訪問が難しい場合にはR4年度に使用することも検討する。「人件費・謝金」の繰越額およびR3年度の申請額は、R2年度の未完成のデータ加工と追加の作業に使用する。「その他」のオーダーメイド集計費はR2年度のみの計上であるので、R3年度以降における分析データの拡充に使用する。
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