2020 Fiscal Year Research-status Report
ホロコーストをテーマとした歴史教育・人権教育の実践的教育方法の探究
Project/Area Number |
20K02424
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
柴田 政子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (30400609)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 歴史教育 / 人権教育 / 実践的教育方法 / ホロコースト |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、第二次世界大戦中にナチ・ドイツが行ったユダヤ人虐殺、ホロコーストをテーマとする歴史教育・人権教育について、その実践的教育方法を調査し検討することにある。特に冷戦終結とヨーロッパの地域統合を契機として、世界的な広がりを見せるホロコースト教育の汎用性に着目するものであり、教育現場での実態を調査することを主眼としている。調査は、数あるホロコースト教育研究機関のなかで規模・実績が突出している6機関を対象とし、初年度である今年度は、アウシュビッツ平和解放機関(ポーランド)と国際ホロコースト記念同盟本部(ドイツ)でのフィールド調査を予定していた。 しかし、現下の新型コロナウィルス感染の世界的拡大の状況下にあり、国内・国外の移動自粛・制限のため、現地での調査は行うことが出来なかった。こ状況を受け、本年度の調査は、主に文献調査を中心に行わざるを得なかった。国外の上記2館については、ホームページ上で公開されている情報を収集し、質問等はメールでの交信を通じて行った。回答を得たものもあったが、ヨーロッパ各国におけるロックダウンや職員の勤務様態の変更等のため、回答を得られないものも少なくなかった。 主題である「歴史教育」「人権教育」についての理論や実践に関する文献調査は、国立国会図書館の憲政資料室、国立公文書館、内閣府沖縄戦資料室を中心として、開館時間短縮や入館抽選制等の制限範囲内で遂行した。 研究成果の発表は、後に詳述の通りAsia Pacific Journal of Educationで行い、学会発表は国外(World Council of Comparative Education Societies Symposium)と国内(日本社会科教育学会大会)でいずれもオンラインで行った。 また、後述の高大連携事業では、全国の高校生にむけてテーマに関する授業を行い好反応を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の現地調査は、新型コロナウィルス感染拡大に伴う国内外の移動制限のための、調査対象であったアウシュビッツ平和解放機関(ポーランド)と国際ホロコースト記念同盟本部(ドイツ)をはじめ、国内も含め遂行出来なかった。他方、メールを介した質疑応答やホームページを通じて、出来得る限りの情報収集に努めた。 加えて、課題の主テーマである「歴史教育」「人権教育」についての理論や実践例の文献について国内の制限範囲内(開館時間短縮や入館抽選制等)で行った。具体的には、国立国会図書館の憲政資料室、国立公文書館、内閣府沖縄戦資料室である。 論文としての研究成果の発表は、後に詳述の通り「Contested Memory of Okinawa’s Colonial and War Past: History teaching in and beyond formal education」(Asia Pacific Journal of Education)で行い、学会発表はいずれもオンラインで「Fostering Values of Human Rights through Holocaust Education」(The 3rd World Council of Comparative Education Societies Symposium)と、「歴史教育における記憶の再文脈化―ホロコースト教育の実践的方法の手がかりに―」(第70回日本社会科教育学会大会)を行った。 また、本務校の高大連携事業の一環である「全国高校『探究』キャンプONLINE」で公開授業を提供し、文字通り全国の高校生にむけて研究成果を発信した。「第二次世界大戦の歴史関連諸国における戦後の歴史教育」と題し、ドイツにおけるホロコースト教育を主な例に取り上げ、多くの質問やコメントを受け好評を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は計画していた通りの国外フィールド調査が実施できることを期待する。その理由として、調査対象の一つであるヤド・ヴァシェム(イスラエル国立ホロコースト博物館)があるイスラエルは、新型コロナウィルス対策としてのワクチンの接種が世界でも突出し普及していいる。また、もう一つの調査対象である米国ホロコースト研究所がある米国ワシントンもワクチン接種が進んでいる。両館ともに、大規模な国際的教育プログラムを展開しており、また両館とも展示も主な事業としていることから、特に写真や映像、生存者ほか関係者の指摘著述を用いた教育プログラムを重点的に調査する予定である。他方、コロナ禍でのアジア人に対する暴力事件も多発し社会問題ともなっていることから、現地での安全対策には万全を期したい。 国内の移動自粛も次第に緩和されると推察し、日本におけるホロコースト教育に関わる博物館や資料館、NGO/NPO各組織から情報を得る。具体的には、アウシュビッツ平和博物館(福島県白河市)と、NPO法人ホロコースト教育資料センター(東京都新宿区)での調査・情報収集を予定している。前者は初めての訪問であるため、出来れば関係者に面談協力を依頼したい。後者は既に2010年5月に調査(代表石岡史子氏による小学校への訪問授業「ハンナのかばん」参観・録画記録)をさせて頂いており、今般の実践的教育方法の研究という観点から貴重な継続調査となると期待できる。また、この団体のネットワークを活用して、首都圏を中心とした各学校での具体的学習内容や、教室外での取り組みについての調査や情報収集が出来ることを期待する。 以上、フィールド調査を中心とした研究活動を再開したいが、新型コロナウィルス感染拡大状況が好転しない場合も想定し、文献調査やメールによる聴き取り調査にも注力する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染の世界的拡大にともない、国内外でのフィールド調査が全く実施できなかったため。 令和3年度は、残額(954,209円)の使途として、新型コロナウィルス感染状況を注視しつつ、国内のフィールド調査のための旅費および文献調査のための資料収集を中心として充てる予定である。 また国外調査については、上述の通り、同ウィルス対策としてのワクチン接種が進捗している国においては、可能な限り遅延しているフィールド調査を行いたいと考えている。
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