2021 Fiscal Year Research-status Report
ホロコーストをテーマとした歴史教育・人権教育の実践的教育方法の探究
Project/Area Number |
20K02424
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
柴田 政子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (30400609)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ホロコースト教育 / 歴史教育 / 人権教育 / 実践的教育方法 / 「証言」の活用 / オーラル・ヒストリー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ホロコーストをテーマとする教育について、その汎用的活用に向けた実践的教育方法を探求することにある。世界的に拡大するホロコースト教育の実態は、歴史教育という科目教育に留まらず、反レイシズム等人類に普遍の倫理や価値観をテーマとする人権教育としても広く活用されており、日本への示唆を最終的な目的の一つに定め研究を進めてきた。 視野に入れた具体的活動のうち、特に重点的に情報収集したのは、「生存者の証言」をもとにした歴史教育で、手法はインターネット情報を中心に調査した。生存者など「個人」の記憶や証言にもとづくオーラル・ヒストリー(口述資料)は、現代史の語り部ともいわれる人びとの「生きた歴史」とも言われ、その講話は文書資料中心の教科書では得られない、学習者の興味関心の高まりといった学習効果が期待された。 特に注目したのは、米国ホロコースト研究所・同記念博物館における、生存者及び犠牲者家族の証言を基にしたデジタル・アーカイブスである。その特筆すべき点は、第一点に活用実績の多さである。2021年8月の調査時点で、文書・写真・映像・録音・個人的遺品など数263,272点の記録を所蔵しており、オーラル・ヒストリー・アーカイブス(Jeff and Toby Herr Oral History Archive)は、80,303件の音声または映像による「個人の歴史」を館の内外でアクセス可能なオンラインサイトで提供している。こうした活動を支える年間6千万ドル近い連邦政府資金と、世界中から集まる寄付をもとにした資金の潤沢さは比類ない。 こうしたオーラル・ヒストリー活用手法は、他の多くの大量虐殺や民族浄化など人権侵害に関わる歴史教育に影響を及ぼしており、日本の広島や長崎における原子爆弾投下の被害や沖縄戦での市民の被害など、大戦における非戦闘員の大量死に関わる歴史学習において学べる点について発展的知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
国外現地調査による情報収集は新型コロナウイルス感染拡大のため可能ではなかったが、調査対象機関(国際ホロコースト記念同盟本部、イスラエル国立ホロコースト記念博物館附属研究所、米国ホロコースト研究所)がインターネット・ホームページ上で公開している情報、並びに既に面談実績のある担当者とEメールを通じて可能な限り情報収集を行った。 また国内においては、アウシュヴィッツ平和博物館(福島県白河市)で現地調査を行い、同館創設時から運営に携わってきた館長・小渕真理氏に面談し調査した。同面談を通じ、ホロコーストという歴史事象に直接的関係性が薄かった日本におけるホロコースト教育の意義について、人権尊重・反差別といった広義の捉え方の重要性について知見を深めることができた。 前述の国外調査対象機関が公開しているインターネット情報とEメール・インタビュー情報をもとに、第70回全国社会科教育学会全国研究大会において、生存者の証言等オーラル・ヒストリーを活用した社会科歴史教育の実践的教育方法について発表した。その内容は、論文「歴史学習教材としてのオーラル・ヒストリー―ホロコースト教育から見えてくる『個人』の記憶の教育的活用―」と題してまとめ投稿したが、残念ながら不採用となったので、再投稿を検討している。 他方、歴史教育を通じた人権教育という通底するテーマで、沖縄戦を踏まえた米国による沖縄における戦後占領教育改革について、論文"Educational Reconstruction and the Promotion of Local Identity: Okinawa in the American Occupation 1945-1972"を執筆・投稿し、国際的学術雑誌Comparative Education (Impact Factor 2021-2022: 2.45)(第58巻2号)に採用・掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題研究開始以来懸案となっている国外の現地調査について、最終年度1年間ですべて完了することは可能ではないので、新型コロナウイルス感染拡大並びにそれに関連する各国の出入国制限状況を見計らいながら、出来得る限りの調査を行いたいと考えている。具体的には、コロナ関連に関しては、調査対象5か国(ポーランド、ドイツ、イスラエル、オランダ、アメリカ合衆国)はいずれも「感染危険レベル2:不要不急の渡航中止」(外務省安全情報)であり調査目的の渡航は特別注意を払いながらも可能であると考える。ただし、現下のロシアによるウクライナ侵略に伴う避難民受け入れという戦禍の影響を鑑み、ポーランドにおける調査は今次の課題研究では極めて困難・危険であると判断し断念する予定である。 ポーランドを除く対象4か国においても計画した現地調査が行えなかった場合は、既に面談実績のある各機関担当者とEメール、オンライン遠隔会議ツール等のコミュニケーション手段を用いて情報収集を継続する。 具体的には、(1)ヘブライ大学のDan Porat教授を通じてイスラエル国立ホロコースト記念館における生存者証言の教育的活用方法についての情報収集、(2)米国ホロコースト記念博物館のChristina Chavarria氏を通じて、付属の米国ホロコースト研究所におけるデジタル・アーカイブスの収集活用並びにその教育的実践についての情報収集、(3)アンネ・フランク財団のJan Dubbelman氏を通じてのホロコースト教育の発展的応用としての反レイシズム啓発活動についての情報収集を行いたいと考えている。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染の世界的拡大のため、当初予定した国内外の現地調査が滞っているため。とりわけ国外における現地調査はすべて未完了であるため。従い、最終年度の今年度に山積した調査を慣行したいと考えている。その際、同感染状況またそれに応じた日本及び関連各国の出入国制限に従い計画を立て、必要な場合は研究期間の延長を申請する予定である。
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