2020 Fiscal Year Research-status Report
夜間中学における教育実践とその学びに関する研究-夜間中学生の過去・現在・未来-
Project/Area Number |
20K02443
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Research Institution | Kobe Gakuin University |
Principal Investigator |
水本 浩典 神戸学院大学, 人文学部, 名誉教授 (30140396)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浅野 慎一 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (40202593)
金 益見 神戸学院大学, 人文学部, 准教授 (60624004)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 夜間中学 / 夜勉(よるべん) / 髙野雅夫資料 / 自主夜間中学 / 識字教室 / 夜間高校 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は夜間中学卒業生が獲得した「学び」の実態を聞き取り調査データと50年にわたる夜間中学生関係資料を収集し続けた髙野雅夫による膨大な資料の両面から検討し分析することを目的としている。 ただ、夜間中学卒業生のほとんどが高齢のため、コロナ禍のなか直接面談して聞き取り調査を行うことができない状況にある。そのため、研究分担者とも協議し、過去に実施した聞き取り調査データを整理し、本研究へのアプローチの第一歩とすることを目指した。 本研究代表者である水本は、大学における学生による夜間中学へのアプローチについて卒業論文としてのアプローチを分析した。また、なぜ、歴史学分野の研究者である水本が夜間中学における教育実践への分析を行うことになったのかという軌跡を総括する作業を行った。 研究分担者である金は、過去に実施した大阪の自主夜間中学=生野オモニハッキョの学習者に対して支援者として参加した実体験を踏まえて、在日韓国・朝鮮人の「学び」の実態と「学び」における難しさについて分析を行った。 もう1名の研究分担者である浅野は、中国からの引揚げ者が日本を学ぶ時の様態とその実態についての聞き取りデータなどを精査し、本研究へのアプローチに繋げた。 水本と金は、水本の夜間中学への至る軌跡、大学生を指導した夜間中学に対する指導実績、自主夜間中学での在日韓国朝鮮人の識字としての学びを、まとめ1冊に上梓する計画を進めた(水本・金共編著『こんばんは、夜勉です。-大学生が夜間中学を学ぶ-』)。ただ、昨今のコロナ禍のなか印刷行程が遅延し、出版が2021年5月末までずれ込んでいる(当初は、2021年3月末に刊行予定)。浅野は分析結果を個別論文として成果発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、高齢者が大多数を占める夜間中学卒業生に対して、どのようにして「学び」を獲得したのか、聞き取り調査といった手法を使ってアプローチすることを計画している。また、荒川第九中学校二部(夜間学級)卒業生である髙野雅夫が収集した貴重な夜間中学関係資料を直接髙野に質問しながら整理作業を行い、どのようにして文字とことばを奪われた人びとが夜間中学で文字とことばを獲得していくのか、協働作業を進めるなかで情報を収集し分析の基礎にする予定であった。 髙野は2020年に80歳を迎え、自宅(大阪府内)から神戸市内の神戸学院大学まで通ってくることが難しくなっている。特に、高齢と基礎疾患がある髙野にとって県を越えて公共交通機関を利用しながらの行き来は大きな代償が伴う危険性もあるため、この計画は途絶している。コロナ禍が治まった状況になるまで、このアプローチは停滞せざるを得ない。 しかし、昨今のコロナ禍のなかでは、夜間中学卒業生への対面による聞き取り調査は不可能であり、状況が改善する環境まで延期せざるを得ない。そのため、過去に蓄積した夜間中学に対するアプローチのうち、本研究に合致する情報を精査し、それらのデータから研究を開始する方法を採らざるを得ない状況にある。 同時に、夜間中学で実際に夜間中学生に授業実践を行った経験を持つ元教員も高齢であるため、直接的なアプローチをひかえているのが現状である。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度には本来の研究アプローチである夜間中学卒業生に対する対面による聞き取り調査を新規に開始する計画である。しかし、これも、コロナ禍の蔓延が途絶し感染の恐れがなくなる時期を勘案しながら実施する予定である。 2020年度には夜間中学卒業生に対して、アンケート調査なども実施する案を検討したが、個別具体的に夜間中学卒業生が夜間中学・識字教室で、どのように「学び」を獲得していったのかを探るには、この手法は適切でないと判断して中止している。 以上の状況を勘案して、本年度は「髙野雅夫夜間中学資料室」(現在、整理しつつある髙野雅夫が収集した膨大な資料を保管し、共有化するための資料室)を創設することを計画し、様々な夜間中学関係資料を実見しながら検討する「夜間中学生の『学び』に関する学習会」を夜間中学元教員や夜間中学卒業生などとともに実施していくことを計画している。 そのうえで、これらの成果を年刊の夜間中学研究誌『夜間中学における教育実践とその学び-夜間中学生の過去・現在・未来-』=夜間中学(夜間中学、そして識字教室)における授業実践と、その学びに関する情報と分析を掲載する研究誌を発刊し、夜間中学に対する様々な研究や聞き取り調査、貴重な夜間中学関係資料の整理と分析を行う共通の場として創出することを計画している。本研究によるアプローチもこの夜間中学研究誌で公表していくことを考えている。 そのため、2021年5月に出版できる『こんばんは、夜勉です。-大学が夜間中学を学ぶ』(出版元:神戸新聞総合出版センター)をテキストに合評会も開催する計画である。これによって、多くの夜間中学卒業生の「学び」獲得に対する記憶への触発とするとともに、実際に夜間中学において夜間中学を教えた経験を持つ夜間中学元教員へのアプローチの第一歩としたい。
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