2022 Fiscal Year Research-status Report
Study of the drama education in the school education of Germany
Project/Area Number |
20K02458
|
Research Institution | Niimi College |
Principal Investigator |
広瀬 綾子 新見公立大学, 健康科学部, 准教授 (30814496)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 演劇教育 / ドイツの青少年劇場 / ブレヒト / 人間形成 / ドイツの学校教育 / シュタイナー教育 / 新教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「ドイツの学校教育における演劇教育」について明らかにするものであり、その柱は主に、理論研究と実践研究から成る。3年目である今年度は、渡独し、現地での研究調査を行った。以下は、その主要なものである。 (1)ドイツ・ベルリンにおける青少年劇場「グリップス・シアター」(GRIPS Theater)において中・高生対象作品の上演分析を行った。「Nasser#7 Leben」は、家族との葛藤やアイデンティティの問題を描いた作品であり、授業の一環として中・高校生の団体鑑賞も多い。これらの作品の中高生を意識した投げかけや演出のありかたについて明らかにすることができた。 (2)ドイツ・ミュンヘンの歴史ある子ども劇場「Theater fuer Kinder」で、グリム童話「赤ずきん」(Rotkaeppchen)についての研究調査を行った。赤ずきんは賢く自立していて、偏見にとらわれないモチーフとして描かれていることなど、小学校の芸術鑑賞で高い人気を誇るこれらの演目の戯曲分析や演出のあり方についての分析を行った。また、ドイツ各地で行われている子どもたちを対象とした野外劇や人形劇などについても取り上げ、演劇鑑賞が子どもの人間形成に果たす役割を明らかにすることができた。 (3)ベルリンを拠点とするドイツの名門、シャウビューネ劇場による演劇作品「Im Herzen der Gewalt」(暴力の歴史)を取り上げ、考察を行った。この作品では、移民やセクシュアル・マイノリティ、収入格差といった、社会に容認され、黙殺され、そして再生産される暴力の形が多層的、重層的に描かれる。ドイツの演劇教育は、社会問題を扱ったものが多く、演劇が社会と個人をつなぐ重要な役割を果たすと同時に、問題提起や議論を誘発する刺激にもなり得ることを明らかにすることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ドイツにおける多彩な演劇教育の実際に触れ、次年度以降の研究を方向付ける重要な足がかりを築くことができた。 (1)10年に一度、ドイツ・オーバーアマガウで上演される世界最大規模の「キリスト受難劇」(Passions Spiele 2022)についての研究調査を行った。演劇が、比喩表現に満ちた聖書の記述や行間を描写していると同時に、聖書の本質と確信を浮かび上がらせる力を持っていることを明らかにすることができた。ドイツの演劇教育のルーツの一つともいえるキリスト教と演劇について取り上げることは、ドイツの演劇教育を解明するうえで大きな手がかりとなる。 (2)ドイツにおける私立学校の一つシュタイナー学校では、盛んに演劇教育が行われているが、日本国内における代表的なシュタイナー学校の一つ「横浜シュタイナー学園」8年生の修了演劇上演「夏の夜の夢」(W.シェイクスピア)を取り上げ、演劇の創作過程が思春期の子どもたちの人間形成に及ぼす教育的意義について明らかにした。日本国内のシュタイナー学校のクラス演劇について体系的に明らかにされたものは数少なく、ドイツにおけるシュタイナー学校におけるクラス劇との比較・検討を行うための大きな足がかりを築くことができた。一方、ドイツの公立学校の演劇教育については、現地で研究調査を行うことができていない。今後の課題としたい。 (3)ドイツの学校教育における演劇教育を支える理論的・思想的基盤となるのは、演劇による啓蒙ならびに人格形成の理念・思想である。その筆頭に挙げられるのはドイツ最大の劇作家・演出家B.ブレヒトであるが、かれの代表的作品「三文オペラ」および「セツアンの善人」(いずれも日本国内での上演)を取り上げ、経済格差、差別・虐待、機能不全に陥いった政治等、現代社会に通じる社会問題や教育問題と演劇の関係について研究を進めることができたのは大きな収穫である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでの研究成果をもとに、ドイツの公立学校、および私立学校でどのような演劇教育が行われているか、具体的には、ドイツの小・中学校が現地の青少年劇場と連携して行う演劇ワークショップのあり方等について研究調査を行いたい。2023年には再度、渡独し、ドイツ・ベルリンにおける代表的な青少年劇場グリップス・シアター(GRIPS Theater)にて、研究調査を行う予定である。日本には存在しない「Theater Paedagoge」(演劇教育家)の存在や、演劇と教育現場をつなぐかれらの役割について明らかにする予定である。また、グリップス・シアターと連携している、演劇教育を推進するベルリンの小学校、中学校にて研究調査を行いたい。あわせて、ベルリンにおけるブレヒトの拠点劇場ベルリーナー・アンサンブル(Berliner Ensemble)にて、ブレヒト作品の上演分析を行い、その背後にあるブレヒトの演劇教育思想をより深く詳細に明らかにしたい。
|
Causes of Carryover |
(理由)研究計画では、国内学会に参加し発表する予定であったが、準備が間に合わず、参加することができなかったため、その分の費用の剰余金が生じた。
(使用計画)その残額は、本年度行う予定の活動とともに、研究最終年度のため、成果のとりまとめにかかる費用(学会発表、論文、まとめとなる研究成果の発信等)に使用したいと考えている。
|