2020 Fiscal Year Research-status Report
Study on Maltreatment, Corporal Punishment and Parental Right of Correction
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20K02463
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
広井 多鶴子 実践女子大学, 人間社会学部, 教授 (90269308)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 児童虐待 / 子どもの権利 / 親権停止 / 子ども家庭福祉 / 児童福祉法 / 児童虐待防止法 / 児童相談所 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、なぜ1990年代に児童虐待問題が登場するのかについて、新聞報道や児童福祉関係の政策と法制度を中心に資料を集め、分析した。 『朝日新聞』では、1980年代までは児童虐待に関する記事はほとんど掲載されていない。唯一、田村健二と池田由子が行なった児童相談所を対象とした調査結果が載っているだけである(1985年4月12日)。だが、この調査を契機に大阪などでも児童虐待に関する調査が行なわれるようになり、このことが児童虐待問題の登場につながったものと思われる。1990年代に入ると少しずつ記事が増えるが、児童虐待が育児不安と結びつけられて論じられている点が特徴的である。池田の言うように、児童虐待は「社会病理」ではなく、「家族病理」として捉えられ、核家族化を理由に「どんな家庭でも起り得る」と言われるようになるのである。 児童福祉関係では、1990年から厚生省が児童相談所に寄せられた児童虐待に関する相談対応件数の集計を開始し、以後、個々の家庭のリスクアセスメントや全戸訪問(こんにちは赤ちゃん事業)など、様々な対策が実施される。また、2000年に児童虐待防止法が制定され、2011年5月の民法改正により、親権停止制度が創設される。 こうした中、2016年、社会保障審議会児童部会は、子どもが親に「適切に養育される」権利と親からの「自立」を基本理念とする新しい「子ども家庭福祉」を打ち出す。このことは、子どもの権利の拡大を意味するだけではない。「子ども家庭福祉」は、親の権限を大幅に制限するとともに、行政の責任を子どもの福祉を実現する責任から、親に子どもを「適切に養育させる」責任へと転換させるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
児童虐待や児童福祉に関する新聞報道と政策・法制度に関しては、新聞の検索サイトや各省庁のwebサイト、総務省の統計など、インターネットを通じて文献や資料をかなり入手することができた。 一方、戦後の育児雑誌や婦人雑誌などについては、新型コロナの感染拡大という状況の中で、雑誌を所蔵している図書館などを訪れることが十分できなかったため、資料収集が予定通り進まなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、2020年度に十分できなかった育児雑誌や婦人雑誌の調査を進めるとともに、民法学の懲戒権に関する理解の変化について分析を行なう。1994年に出された民法最大のコンメンタールである於保不二雄・中川淳編『新版注釈民法(25)』は、親は子どもの教育のために、「叱る・殴る・ひねる・縛る・押し入れに入れる・蔵に入れる・禁食せしめるなど適宜の手段を用いてよい」と書いているが、児童虐待問題が登場する中で、こうした解釈がどのように変化するかを明らかにする。また、可能な範囲で国連の体罰と虐待に関する政策動向についても調べたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染拡大などにより、調査に出かけることがほとんどできなかった。また、ドイツをはじめとしたヨーロッパでの体罰の動向に関して専門的知識を持つ研究者に聞取りを行う予定だったが、それもできなかったため、次年度使用額が生じた。 5月現在も「非常事態宣言」が出されているため、8~9月の夏季休業期間に文献の調査、および、研究者や児童福祉関係者への聞取り調査を進めていきたい。
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