2023 Fiscal Year Research-status Report
Study on Maltreatment, Corporal Punishment and Parental Right of Correction
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20K02463
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
広井 多鶴子 実践女子大学, 人間社会学部, 教授 (90269308)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 親権 / 民法 / 児童虐待 / 子どもの権利 / 子どもの権利条約 / 親の懲戒権 / 親の体罰 / 幼児教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
親権は現在、1898年の明治民法制定以来の歴史的転換点にある。近年、親権制限制度の創設、懲戒権の削除と体罰の禁止、成年年齢の引下げなどが進められてきた。そして、今年5月、明治民法以来の「子は親権に服す」という条文(第818条)が、「親権は、成年に達しない子について、その子の利益のために行使しなければならない」という条文に変わるとともに、離婚後の父母の共同親権が導入された。2023年度は、こうした近年の親権改革を子どもの権利条約の批准(1994年)と児童虐待防止法の制定(2000)年を契機とするものとして位置づけ、その歴史的な意味について考察した。 また、2023年度は、①子ども虐待防止学会への参加、②児童虐待問題にかかわってきた寝屋川市職員への聞き取り調査、③大阪Child Abuse研究会のシンポジウムへの参加(オンライン)、④イタリアのレッジョ・エミリア市の幼児教育視察など、これまで十分行えなかった児童虐待と幼児教育に関する視察や聞き取り調査を進めた。児童相談所が児童虐待に対して実際どのような対応をしているのかは、外部からはなかなか見えないが、①②③を通じて、子どもの権利という視点が虐待への対応や対策に活かされている現状や家族介入の方法について一定程度知ることができた。 イタリアのレッジョ・エミリア市の幼児教育は、子どもを権利主体と見なし、一人ひとりの子どもの意見や自発性を尊重する教育として知られる。今回の視察では、ローリス・マラグッツィ国際センターにてそうした教育理念や理論、歴史に関してレクチャーを受けるとともに、市内の学校に教材を提供する「クリエイティブ・Recycling・REMIDA」や市立幼稚園を訪れ、子どもの自発性を引き出し、サポートするための取り組みや教育実践について直接見聞することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
自治体の児童福祉関係部局への調査や福祉関係のNPOなどへの調査を予定していたが、新型コロナの感染拡大により、しばらく視察や調査が行えなかった。2023年度は「研究実績の概要」のところで書いたように、視察や聞き取り調査に取り組んだが、全体としてみると、なお、遅れは取り戻せていない。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、昨年に引き続き、現在の親権改革の歴史的な意味について考察することで、本研究のまとめとしたい。明治民法は、親こそが子どもの権利と利益を守るべき存在であると捉えて親に親権を与えたが、子どもの権利条約および児童虐待防止法によって、明治民法以来のこうした近代の親権の理念が揺らぐことになる。親は子どもの権利を侵害しかねない存在と見なされ、親の保護や権利に還元されない子どもの権利が認められるようになったからである。今年度はこうした親権の歴史的な変化を様々な文献資料を通して分析していきたい。 また、2023年度に引き続き、子どもの権利保障のための施策が充実している国の先進的な福祉と教育を視察したいと考えている。当初、ドイツやカナダを考えていたが、アポイントメントを取ることができず断念した。だが、2023年はイタリアのレッジョ・エミリア市の幼児教育を視察することができた。2024年度は、フィンランドの「ネウボラ」(子育てに関する相談支援機関)や児童中心主義的な幼児教育を実践している教育機関を見学する予定である。 自治体の児童虐待対策や体罰の禁止に関する施策についても、引き続き聞き取り調査を進めたいと考えている。昨年は大阪、一昨年には沖縄に調査に行ったが、今年度も両府県を中心として調査を行う。 これらの視察や調査を通し、子どもの権利の実現のための施策がどのように進められているか、また、そうした施策を進める上で、どのような課題があるのかなどについて明らかにしていきたい。
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Causes of Carryover |
2023年度はほぼ計画どおり研究を進めることができたが、それ以前の2年間に海外や自治体での調査が行えず、遅れを取り戻せなかったことが主な要因である。2024年度は、フィンランドや自治体などへの調査を計画的に進めたいと考えている。
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Research Products
(1 results)