2021 Fiscal Year Research-status Report
欧州仏語圏4か国における幼児教育義務化の政策意図と制度的条件に関する比較研究
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20K02480
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
藤井 穂高 筑波大学, 人間系, 教授 (50238531)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | フランス / ルクセンブルク / 幼児教育 / 義務化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はルクセンブルク及びフランスの幼児教育義務化に係る研究成果を論文の形で発表した。 まず、ルクセンブルクについては、同国が幼児教育の段階においてもっとも厳格な義務教育制をとっている点に着目し、その論理と背景を検討した。ルクセンブルクの教育制度と義務教育の概要を述べ、次に、2009年法に至るまでの幼児教育の義務化の経緯を整理した。その上で、ルクセンブルクの抱える基本的な教育課題を検討し、幼児教育義務化の社会的教育的背景を考察した。 義務違反の厳罰化の論理は、制定過程を見る限り、この段階の教育が移民の子どもの社会化に格別の役割を果たしているとの1点にとどまるものであった。むしろ議論の焦点はその前段階にある3歳児の「準備教育」の義務化の是非にあった。義務教育法と同時に成立した基礎学校法により従来の幼稚園は小学校に完全に統合される形になったため、義務教育法制も小学校のそれに合わせるための改正であったと見ることもできる。一方、その背景を見る限り、幼児教育段階に大きな期待が寄せられることも理解できる。すなわち、ルクセンブルクは小国ながらその国民のアイデンティティーの象徴としてルクセンブルク語の学習が求められる一方で、ヨーロッパの十字路に位置し欧州の諸機関が置かれる国際的な国家でありその中で活躍できる人材としてフランス語とドイツ語も操れる人材が求められる。ところが移民大国でもある同国においてはそうした3か国語の教育は移民に代表される社会的に不利な環境に置かれた子供たちにとってはハードルが高く、制度的に困難を生み出していることも検討した。 一方、フランスについては、「学校教育の臨界」として幼児教育をとらえた論文において、3歳まで義務教育の開始年齢を引き下げた2019年の改革について、議会資料を基にその立法者意思の一端を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではフランス語圏4か国、すなわち、フランス、ベルギー、スイス、ルクセンブルク各国の義務化の政策動向及びそれに係る議論を検討することを課題としている。本年度で2年目を終えるが、4か国のうち、ルクセンブルクについては論文の形で発表した。また、スイスについては、すでに論文の形で発表しており、その後の進捗状況を整理する必要がある。フランスについてもこれまで散発的に議論を紹介しているが、資料については十分に整っている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の3年目に当たる次年度については、未着手のベルギーの資料収集を進める。ベルギーの幼児教育については、日本での先行研究が必ずしも十分ではないことから、その法制度を整理するとともに、2019年に5歳に義務教育を引き下げる法律が成立しており、その議会資料の収集を進める。また、3歳まで義務教育の開始年齢を引き下げたフランスについては議会資料は収集済みであり、その他の資料も十分に整っているため、論文の執筆を予定している。
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Research Products
(2 results)