2022 Fiscal Year Research-status Report
欧州仏語圏4か国における幼児教育義務化の政策意図と制度的条件に関する比較研究
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20K02480
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
藤井 穂高 筑波大学, 人間系, 教授 (50238531)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 幼児教育 / 義務化 / ベルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はわが国ではほとんど先行研究のないベルギーの幼児教育義務化について研究を進め、論文にまとめた。 同論文では、2019年法の審議過程を振り返り、義務教育開始年齢を5歳に引き下げる法律の立法者意思を明らかにすることを課題とした。ベルギーは、諸外国の中でも幼児教育の就学率が最も高い国の一つであり、同じフランス語を公用語とする国々が次々と3、4歳からの義務教育を実現したのに対し、なぜ5歳なのかを明らかにしようと試みた。 幼児教育の義務化を求める議論自体は、教育の機会の均等の原則の徹底、その裏返しとしての社会的不平等の是正を根拠としており、幼児期の教育がその後の教育の基盤となることからその重要性が指摘されることも諸外国と大差ない。 その一方で、ベルギーに特徴的なのは、憲法に明記される教育の自由、そのコロラリーとしての親の教育選択の自由であり、もう一つは連邦制という国家制度である。連邦議会での議論にしばしば登場するのは、今回の改正は義務教育の始期に関する問題であり、就学義務ではないという議論であり、その前提として、親の教育の自由を妨げるものではないことが繰り返し唱えられた。また、教育は基本的に各共同体の管轄であるにもかかわらず、義務教育の始期と終期は連邦の所掌範囲にあることから、フランデレンとワロンの協調が不可欠となる。連邦制に移行するほど両者の関係は緊張関係にあるにもかかわらず、義務教育の始期については両者の合意がなければ前進しない。そしてこの2つの課題において調整原理として登場するのが均衡の原則であった。コンセイユ・デタの意見書により、立法府で議論は3歳ではなく5歳からの義務教育に収斂していくことになるが、その決め手となったのが均衡の原則であり、他国では、少なくとも幼児教育の義務化の理論において、あまり見ない原則である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではフランス語圏4か国、すなわち、フランス、ベルギー、スイス、ルクセンブルク各国の義務化の政策動向及びそれに係る議論を検討することを課題としている。本年度で3年目を終えるが、4か国のうち、ルクセンブルクとベルギーについては論文の形で発表した。またフランスについては「学校教育の臨界」という課題で義務化の動向を盛り込む形で日本比較教育学会の学会誌に論文が掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本研究課題の最終年度となるため、義務化としては最も年齢の低い3歳からの義務化を実現したフランスの本格的研究に着手するとともに、スイスについては、これまでに発表してきた研究成果の継続として、その後の改革の進捗状況を確認する。あわせてこれまでの研究を総括する研究報告書を作成する予定である。
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Research Products
(4 results)