2022 Fiscal Year Research-status Report
民衆思想にみるカタストロフィーの記憶継承技法の教育学的可能性
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20K02502
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
高橋 舞 日本女子大学, 人間社会学部, 研究員 (50735719)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小野 文生 同志社大学, グローバル地域文化学部, 教授 (50437175)
岡部 美香 大阪大学, 大学院人間科学研究科, 教授 (80294776)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | カタストロフィー / 民衆思想 / 〈生〉の実践地 / 記憶継承 / 受苦 / 共生の思想 / 花崎皋平 / 沖縄の民衆思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
3年目にあたる2022年度は、カタストロフィーの記憶継承の場として考えられる夜間中学、水俣、ハンセン病、沖縄等における、共同研究メンバー各人が持つフィールドを基盤とした研究を進め、これらの成果の一部を論文や著書で公表することができた。 もう一つ大きな実績としては、共同研究における思想的共通軸になると考えられる花崎皋平氏の「受苦を基盤とした共生哲学、民衆思想」について共同で研究することを集中的に実施てきた点が挙げられる。具体的には 1.2022年9月に共同研究者全員で北海道に住む花崎皋平氏宅に訪問し、アイヌの人々、夜間中学や自由学校、地域コミュニティの中での関わりなど、氏の共生思想に基づいた人生の軌跡について同行取材、聞き取り、座談会を行い、氏が大切にする〈生〉の実践知と、それを生み出してきたと考える人物、氏にとってのカタストロフィーの記憶継承の意味、意義等について調査研究を行うことができた。 2.アイヌの人々との共生実践や松浦武四郎、田中正造が花崎皋平氏の思想形成、思想実践に重大な影響を与えたことは広く知られている所であるが、2021年度までに本研究によって氏の受苦に基づく共生思想が練磨されていく上で欠かせなかったもう一つの重要の「場」として沖縄が位置づいている点が抽出された。これに基づき2023年3月には、花崎氏と沖縄に赴き、氏の沖縄の人々との思想交流の同行取材を行うと共に、沖縄の複数の民衆思想家との座談会も開催し参与観察を行った。これらを通し、氏が沖縄の人々、沖縄の民衆思想とどのような交流を持ち、沖縄という「場」に襲ったカタストロフィーの記憶継承について思考し思想実践してきたか調査することができた。 以上により2022年度は、2023年度と2024年度で本研究課題の研究成果をまとめ、公表していく上での貴重な調査研究を実施できたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
国内外におけるフィールド研究にプライオリティーを置いた本研究にとり、研究始発時より新型コロナウィルス感染症拡大状況下におかれ、渡航が著しく制限されたことは、研究内容に大幅な制限を与えたことは否めない。 しかし共同研究者各人がそれぞれ制限のある中でも情勢を見極め実施可能なフィールド研究を遂行し、文研研究と統合した研究成果を上げられていることに加え、民衆思想をテーマとする本研究課題における中心的民衆思想家に位置づく花崎皋平氏に対する調査研究は、本年度の研究実績の概要にも示した通り、想定以上の質の高い調査研究が継続的に積み重ねられている状況にある。これにより本研究は研究課題に対する、着実な成果をもたらすことができると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の計画段階では国内外のフィールド研究を計画していたが、コロナウィルス感染拡大状況下で特に著しく制約を受けた海外フィールド研究については、3年間で一度も実施することが叶わなかった。このため本研究期間中における渡航しての海外フィールド調査(韓国)を断念し、国内フィールド研究を集中的に行う方策に変更することにする。 ただし、研究課題に対し、研究内容の基盤に関わるような研究計画の変更はない。これまでに行った文献・フィールド研究から、カタストロフィーに寄り添う日本の民衆思想は国内に閉塞することなく、豊かにアジアを中心として人々にひらかれ、繋がりを生みだし、共生の思想を醸成している点が抽出されており、この点に注視し、より丹念に調査、分析していくことを通して、課題に取り組んでいきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大状況下で、予定していたフィールド調査の一部が実施されていないため、一定額の次年度使用額が生じた。本研究では2023年度も実施できていなかった調査を含め継続的にフィールド調査を計画しており、本次年度使用額もこれに配当したいと考える。
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Remarks |
髙橋舞(2022)〈図書紹介〉 山名淳編『伝達と創造 : 「原爆の絵」プロジェクトを通して想起と創造を考える』、『教育哲学研究』第126号、99-101頁。
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Research Products
(3 results)