2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K02511
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
藤井 佳世 横浜国立大学, 教育学部, 准教授 (50454153)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 教育学 / ドイツ / 人間形成論 / 教育改革 / ハーバーマス / ストヤノフ / ホネット |
Outline of Annual Research Achievements |
ホネット承認論を教育哲学において受容したストヤノフの人間形成論の解読を進めるとともに、1960年代の教育改革に関わるハーバーマスの大学論の解読に取り組んだ。第一に、ストヤノフの人間形成論は、異なる文化間の移動とアイデンティティについて論じていることから、承認は、ドイツ思想の一端としてだけではなく、「社会に存在する根本的なシステム」であり、日常の生活経験に深く根を下ろした実践と言える。承認の三形態は近代西洋社会の視点から説明されているため、人間形成における文化と承認を議論する場への注視が必要であることが明らかになった。このことは、単純な西洋と東洋の比較ということではなく、文化のコンテクストの中で生活実践における承認のあり方を捉え直すことにつながる。第二に、現代社会におけるフランクフルト学派の批判理論が抱えている困難について確認し、ストヤノフの人間形成論を批判理論と教育思想史の視点から考察した。ホネットが社会批判を導く理想が実際の社会の中でどのように機能しているかを探知する社会批判のアプローチに言及していることから、既存の社会に係留している隠れた規範を再活性化させる批判理論を教育実践の文脈で探知することも「批判」の一つであると言える。そのような批判を視野に収めた理論構築と実践の解釈によって、批判理論と教育学の関係を再構築する方向性を得た。第三に、ハーバーマスが1960年代に発表した高等教育に関する論考の考察を進めた。ハーバーマスは、科学技術の進展に伴う高等教育の教育内容の変化を肯定的に捉えるだけではなく、デモクラシーに適う高等教育の仕組みについても述べており、哲学による精神の修養から社会科学へ拡大するアカデミックな教育モデルを論じたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ストヤノフの人間形成論と批判理論と教育学の研究から、批判的教育学を更新する「批判」の視点を獲得することができ、教育実践と結びつく新しい批判的人間形成論の方向性を得ることができた。同時に、1960年代における幅広い教育改革の具体的な実践の場所の一つであった大学に関して、社会変化に応じる高等教育をハーバーマスは構想し、大学自治と民主化を価値づけていることを戦後ドイツ社会の学術的展開と重ねながら捉え直すことができた。それらのことから、ホネットの承認論と教育学の接続を試みているストヤノフの理論は、批判的教育学の視点から見ると、新しい展開ではあるが、未だ教育実践との接続には課題があることも明確になり、順調に進んでいる。しかしながら、ハーバーマスの理論に基づいた教育実践と人間形成論の問題を解明するためには、異なる学校種における探究を進める必要があり、理論と実践の連続性と非連続性を広い視点から解釈する課題が生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度の研究成果を踏まえたうえで、令和3年度は、1960年代の教育改革に関する最新の知見に関する議論とハーバーマスの思想に焦点をあて、その特徴を明らかにする。そのために、教育実践と思想に関する資料を収集し、解読を進める。とりわけ、令和2年度の研究より明らかになった人間の自由、自治や学校の民主化の視点から、当時の教師の証言や資料をもとに、これまでの教育学研究を見直すことによって、批判的教育学の新しい視点を抽出する研究を進める。資料収集や意見交換に関しては、社会状況に応じて、次年度に海外渡航を行うなどの柔軟な対応をとり、全体としての研究の遂行が順調に進むように実施する。
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Causes of Carryover |
洋書、古書(絶版)や洋雑誌の購入等に関して、今日的な社会状況の中で、それらの到着時期が不確定であるなど、当該年度に計画的な実施ができなかったことによるため、次年度は可能な限り早目かつ計画的に実施する。
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