2023 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20K02511
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
藤井 佳世 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (50454153)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 教育学 / ドイツ / ハーバーマス / ホネット / 批判理論 / 人間形成論 / コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究成果をもとに、批判理論と教育学の冷却期間をどのように乗り越えるかということに焦点を絞り、今日的な新しい批判的人間形成論の構築を進めた。ドイツにおける批判理論と教育学は1980年代以降、その関係が大きく変化したといえる。精神科学的教育を中心としてきた教育学研究は、1960年代において批判理論の影響を受けた教育学者らが批判的教育科学を立ち上げ、それはメインストリームの一つを形成した。しかしながら、1980年代以降は、批判的教育科学は諸々の教育学理論の一つとなり、メインストリームから周辺へ移動し、さらに批判理論との繋がりをあまりもたない批判的教育科学も生まれた。このような教育学説史を踏まえた上で、ハーバーマスの理論を読み直すことを通して、次の三点が明らかになった。第一に、コミュニケーションにおける相互行為というテーマは、冷却期以降においても重要であり、コミュニケーションにおける等しさと教育というテーマ群が浮かび上がった。コミュニケーションにおいて物事が了解されるためには、相互の生活世界に基づく合意が必要であり、一人で決定できることではないことから、参加者の等しさが重要となる。第二に、子どもや若者は自律へ向かう存在であることとコミュニケーションにおける等しさは、教育プロセスにおいて実現されるという考えが重要である。教育プロセスは、知の可謬性と批判可能性を内包したものであり、将来の討議可能性から遠ざけるような力に抗することにもなる。第三に、具体的な各共同体における主体形成はユニークで代替不可能であるため、包括的理解を形成するコミュニケーションという成熟の型が示された。以上のことから言えることは、批判理論と教育学をつなぐ視点として、社会批判と主体形成という思想が浮かびあがった。これは、批判理論と教育学の冷却期間以後の今日的な批判的人間形成論の鍵となる思想といえる。
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